アザゼルとは
意味
アザゼルとアザエルの違い
アザゼルとアザエルは同一人物として扱われることもありますし、違う人物として扱われることもあります。非常にややこしい。
フレッド・ゲディングズの「悪魔の辞典」によれば、アグリッパが『隠秘哲学』で四つの方角をそれぞれ支配する天使と、それに対応する悪魔を挙げている。その中でアザゼルは南の風を元素とする悪魔であり、アザゼルは西の水を元素とする悪魔である。
方角 | 元素 | 天使 | 霊 | 悪魔 |
---|---|---|---|---|
東 | 火 | ミカエル | オリエンス | サマエル |
南 | 風 | ウリエル | アマイモン | アザゼル |
西 | 水 | ラファエル | パイモン | アザエル |
北 | 地 | ガブリエル | エギン | マハザエル |
『エノク書』に出てくる堕天使はアザゼルでしょうか、アザエルでしょうか。文献によって同一視しているものもあります。アシエルやアゼル、ハザゼルとも表記されることがあるそうです。ややこしいので整理します。おそらく四元の元素に結びつく悪魔としてのアザエルあるいはアザエルと、堕天使としてのアザエルあるいはアザエルは区別して考えたほうがいいと思います。
『エノク書』におけるアザゼル | 堕天使。神の怒りによって暗闇に、岩につながれ幽閉された。アザエルと同一人物だと思われる。 |
『失楽園』におけるアザゼル | 堕天使。謀反の天使たちの旗を打ちふったもの。 |
イスラム教におけるアザゼル | ジン。アザジルとも呼ばれる。 |
イブリスに名を変えられたアザゼル | 堕天使。アダムを崇拝するように命じられたとき、鹿の子に膝を屈するべきではないとして、従うのを拒み、天から投げ出されたという。そのとき名をアザゼルからイブリスに変えられた |
山羊の守護者としてのアザゼル | 大衆向けのグリモアではアザゼルが山羊の守護者ということになっている。 |
悪魔としてのアザゼル | 四元の風に結びつく悪魔 |
悪魔としてのアザエル | 四元の水に結びつく悪魔 |
アザゼルに関するエピソード
旧約聖書偽典『エノク書』:人間の娘に恋をして堕天する。
『エノク書』によればアザゼルは元々グリゴリという神の命令で人間を監視する200人の天使の集団の一人でした。その中でもアザゼルは指導者だったそうです。
地上に降りた天使たちは、人間の娘たちの魅惑され、娘たちを妻にしようと考えてしまいました。彼らはそうした行為が神への重大な謀反(むほん)であることは知っていました。彼らの中の何人かは最初反対しましたが、結局200人全員人間の娘を妻にしてしまったそうです。
旧約聖書偽典『エノク書』:アザゼル=ルシファー=サタンか?
『エノク書』によればアザゼルは堕天使の頭目という扱いを受けています。堕天使のトップということです。後にアザゼル=サタンという解釈がされるようになったのはこのためでしょうね。悪魔は元々皆天使という説もあり、悪魔の頭目でもあるとも解釈できます。
旧約聖書偽典『エノク書』:人間の娘に知識を与える
さらにグリゴリたちは人間たちに知識を与えてしまいます。アダムとイヴが知識の木を食べてエデンの園から追放されたように、神は人間たちにできるだけ知識を与えないようにしてきたので、これも神への謀反になるわけです。
グリゴリたちが人間に与えた知識は天文学、占星術、薬学、魔術など多岐にわたるそうです。その中でもアザゼルが与えた知識は剣、小刀、楯、胸当てなどの武具、金属の指輪、化粧法などといわれています。
この知識のせいで男は戦い方を知り、女は媚びを売ることを覚えたといいます。そして嫉妬、強欲、淫乱といった悪行に染まっていったそうです。
旧約聖書偽典『エノク書』:巨人が人間を滅ぼし、怒った神が大洪水を起こす
グリゴリたちは人間の娘をめとり、子を作りましたが、なんとできた子は巨人だったといいます。『エノク書』によれば「3000キュビト」であり、約1350メートルあるといわれています。そんな大きな人間をどうやって産んだのかと不思議に思いますよね。成長するにつれて大きくなったのか、あるいは誇張表現かもしれません。
産まれてきた巨人の食欲は凄まじく、人間の作物をすべて食べ、鳥や獣、ついには人間を食べ始め、巨人同士でも共食いをはじめたそうです。悲惨な状況ですね。これを四大天使(ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル)が視察に来て神に報告すると、神は激怒して地上に大洪水を起こしたそうです。
大洪水はノアの方舟で有名ですよね。
旧約聖書偽典『エノク書』:アザゼルは大天使ラファエルによって暗闇に幽閉される
「アザゼルの手足を縛って暗闇に放りこめ。ダドエルにある荒野に穴を掘ってそこにあいつを投げこめ。奴の上にごつごつした、鋭い石をいくつものせ、闇で奴を覆い、そこに永久に坐らせておけ。また奴の顔に何かかぶせて光が見えないようにせよ。審判の大いなる日に、彼は炎の中に投げ込まれるのだ。・・全地はアザゼルのわざの教えで堕落した。いっさいの罪を奴に帰せよ(『エノク書』)。」
ダドエルとは岩場のことです。神はラファエルにアザゼルを幽閉させました。「わざの教え」とは知識のことです。アザゼルは女たちに武器や化粧の使い方を教えました。
旧約聖書偽典『エノク書』:悪魔として扱われるアザゼル
「アザゼルよ、お前は平安を得ることができない。お前を縛ってしまえという厳しい判決が下されたのだ。お前には赦免も休息も与えられない。お前が不義を教え、人々に不信と不義の罪のしあわざを教えたからだ(『エノク書』)」
「これは悪魔アザゼルの群生のために用意されている。天使が彼らをとらえて全き滅びの深淵に投げ込み、諸霊の主が命じられたように彼らの顎をごつごつした岩で押さえつけるのだ(『エノク書』)。」
「これ」というのは重い鎖のことです。天使がこれはなにかと聞かれて答えるシーンです。堕天=悪魔という扱いなんですね。
旧約聖書『創世記』:グリゴリたちの子は英雄(ネフィリム)になる?
1 人が地のおもてにふえ始めて、娘たちが彼らに生れた時、
2 神の子たちは人の娘たちの美しいのを見て、自分の好む者を妻にめとった。
3 そこで主は言われた、「わたしの霊はながく人の中にとどまらない。彼は肉にすぎないのだ。しかし、彼の年は百二十年であろう」。
4 そのころ、またその後にも、地にネピリムがいた。これは神の子たちが人の娘たちのところにはいって、娘たちに産ませたものである。彼らは昔の勇士であり、有名な人々であった。
(『創世記』第六章)
『エノク書』ではグリゴリたちの子は人間たちの作物を食い荒らし、共食いをはじめる怪物的な存在です。一方、『創世記』では英雄的な存在です。『エノク書』ではアザゼルが人間に知識を授けたり、ネフィリムたちが暴れたりして神の怒りをかい、大洪水が起きました。『エノク書』ではネフィリムたちのせいではなく、人間たち自身の罪で大洪水が起きました。両者はかなり違いますよね。
もっとも『創世記』の「神の子」というのがグリゴリを指すかどうかはわかりません。
『レビ記』アザゼルは異教の砂漠の神だった
7 アロンはまた二頭のやぎを取り、それを会見の幕屋の入口で主の前に立たせ、
8 その二頭のやぎのために、くじを引かなければならない。すなわち一つのくじは主のため、一つのくじはアザゼルのためである。
9 そしてアロンは主のためのくじに当ったやぎをささげて、これを罪祭としなければならない。
10 しかし、アザゼルのためのくじに当ったやぎは、主の前に生かしておき、これをもって、あがないをなし、これをアザゼルのために、荒野に送らなければならない。
11 すなわち、アロンは自分のための罪祭の雄牛をささげて、自分と自分の家族のために、あがないをしなければならない。彼は自分のための罪祭の雄牛をほふり、
12 主の前の祭壇から炭火を満たした香炉と、細かくひいた香ばしい薫香を両手いっぱい取って、これを垂幕の内に携え入り、
13 主の前で薫香をその火にくべ、薫香の雲に、あかしの箱の上なる贖罪所をおおわせなければならない。こうして、彼は死を免れるであろう。
(『レビ記』第十六章)
大司祭アロンはモーセの兄です。要するに神とアザゼル両方に山羊の生贄を捧げたということです。ある意味では、神とアザゼルが対等に扱われていますよね。贖罪(しょくざい)の日(the Day of Atonement)に生贄を受け入れる神もしくは精霊という扱いです。荒野の神というと「ハウルの動く城」の荒地の魔女を連想しますね。
神は善悪両方の面があり、やがて神の善い麺と悪い面にわかれ、悪い面をアザゼルが引き受けたという説があります。これが砂漠の神アザゼルです。ドラゴンボールのピッコロを思い出さずにはいられません。しかもやがてアザゼルは魔王サタンになるとかなんとか。
元々はカナン地方の神アシズ(Asiz)をルーツにするそうです。カナン地方といえばバアル・ゼブルもベルゼブブとして悪魔にされてしまいましたよね。ユダヤ教の成立の前はイスラエル人は多くの神を信仰していましたが、「主(ヤハウェ)」とされる神が唯一神になっていく過程で異教の神として悪魔にされていってしまうんですね。
『レビ記』では悪魔という一般名詞と同じように使われています。
『失楽園』に登場する反逆天使としてのアザゼル
『失楽園』で登場するアザゼルは『エノク書』に影響を受けているようです。『失楽園』では背の高い堂々とした天使で、サタンの旗持ちという栄誉ある役割を担っています。
アザゼルのイラスト
アザゼルの容姿について
アザゼルといえば「地獄の辞典」の挿絵のこのイメージが強いです。この姿は謀反の天使というより、中世以降の悪魔研究家によって地獄の君主として人間に取り憑いて、悪行をそそのかせた「悪魔」としてのイメージです。錬金術を行うものたちにとって知識を人間に授けたという話は興味深かったようですね。
『アブラハムの黙示録』では7つの蛇頭、14の顔に六対の翼をもつとされているようです。
ミルトンの叙事詩『失楽園』では背の高い、堂々とした天使として描かれています。
海外のイラスト紹介
参考文献
参考書籍
1:「知っておきたい天使・聖獣と悪魔・魔獣」,荒木正純,(西東社)
2:「悪魔の辞典」、フレッド・ゲティングズ、(青土社)
3:「図解 悪魔学」、草野巧、(新紀元社)
4:「堕天使 悪魔たちのプロフィール」、真野陸也、新紀元社
5:「悪魔辞典」、山北篤、新紀元社
・各WIKI
引用画像
1:https://www.tsemrinpoche.com/tsem-tulku-rinpoche/science-mysteries/the-devil.html
3:https://www.creativeuncut.com/gallery-33/gbf-azazel.html
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