【悪魔】アスタロトとはなにか?意味、エピソード、イラスト、元ネタ紹介

目次

アスタロトとは

意味

アスタロト(Astaroth):古代フェニキア人などが信仰した豊穣多産の女神アスタルテに由来するとされるキリスト教における悪魔。聖書では異教の神として扱われ、中世以降では主にグリモアなどで悪魔として扱われるようになった。公爵(上には最上位の王のみ)に位置する大悪魔であり、見た目は天使の姿でドラゴンに乗っていると言われてる。能力は過去、現在、未来を見通すことができるらしい。元座天使の長で誘惑する罪は「怠惰」。アストレトという異称で呼ばれることがある。

由来

古代フェニキア人の信仰した豊穣多産の女神アスタルテに由来するとされるキリスト教における悪魔。聖書では『士師記』や『列王記』で信仰するべきではない異教の神として扱われている。

キリスト教は唯一神教であり、異教の神を悪魔として扱っていく傾向がある。アスタルテも中世で悪魔として扱われた。女神アスタルテは月との関連が深く、悪魔は月に住んでいるという言説もあって悪魔と関連付けられやすい。またアスタルテの神殿では巫女たちが売春を行っていたとされ、それも悪魔的な、淫らなイメージとして結び付けられたのだろう。

地位

アスタロトは全体的には上位の悪魔として扱われている。中世では悪魔を召喚したり使役させたりする方法の書物であるグリモアが流行ったが、アスタロトも多く扱われている。たとえば『アブラメリンの聖なる魔術書』では8人の次席君主の一人として、『レメゲトン』では公爵として、驚嘆すべき物語では元座天使の君主として扱われている。公爵より上に王がいるので、階級的には最上級ではないイメージが強い。「恐怖公」や「地獄の大公」という呼び名がある。

外見や能力の特徴

『地獄の辞典』コラン・ド・プランシー(1863年) M・プルトンの挿絵

具体的な外見の特徴の多くは『レメゲトン』の『ゲーティア』に書かれているものが主たるものだと思う。あるいは『地獄の辞典』で描かれた挿絵のイメージが強いかもしれない。そこでは月の女神だった面影はなく、醜悪な悪魔として色づけられている。ただ『ゲーティア』では天使の姿とあるので、『地獄の辞典』で描かれた醜悪な人間ではない可能性もある。

『ゲーティア』ではソロモン王の72柱の1人とされ、40軍団の長であり、位は公爵である。能力は過去、現在、未来について正しく答え、すべての秘密を暴くことができる。また教養学に通じていて、望めば天使や彼自身の堕落について教えてくれるらしい。過去、現在、未来について教えてくれる悪魔はたくさんいるので、あまり特異なの力ではないと思う。天使についての知識は特異な能力のひとつかもしれない。

外見は右手に毒蛇を持ち、ドラゴンのような地獄の獣にまたがり、天使の姿で出現するらしい。近づくとくさい息に毒されてしまうらしい。

アスタロトを召喚するときは魔法の銀の指輪を鼻の下につけておくことが有効であるらしい。ちなみに銀は公爵の象徴であり、金は王の象徴である。悪魔の印章をつくるときは位に即した金属を用いる必要がある。

ミルトンの『失楽園』では「三日月の角をもつ天の女神」という表現がある。またミルトンの『キリストの降誕の朝に』では「月型の飾りのあるアシュタロス」、「天の女神にして母であるアシュタロス」とある。これは悪魔になる前のフェニキア人が信仰した女神としての姿かもしれない。

時系列整理(表)

文献年代
旧約聖書『士師記』紀元前1045-紀元前1000年(?)
旧約聖書『列王紀上』11章紀元前7世紀末から紀元前6世紀半?
※エレミヤが活躍した時期と仮定
旧約聖書『列王紀下』23章紀元前7世紀末から紀元前6世紀半?
※エレミヤが活躍した時期と仮定
旧約聖書『申命記』1章4節紀元前7世紀頃(諸説あり)
『ダマスコ文書』紀元前1世紀頃
『悪魔の偽王国』16世紀
ルーダンの悪魔憑き事件17世紀前半
『失楽園』1667年
『ホノリウス教皇の魔導書』17世紀後半
『アブラメリンの聖なる魔術書』18世紀頃
『ラッド博士の論文集』18世紀頃
『魔術の歴史』1859年

アスタロトの起源としてのアスタルテ

アスタルテとは

・アスタルテ:アスタルト、アシュタルト、シュラー、アタルガティスとも呼ばれる。地中海世界各地で信仰された豊穣多産の女神。多産とは性愛や生殖を含んでいる。

・フェニキア人の都市ビュブロス(ビフロス)などで主に信仰されていた

・カナン地方ではイスラエル第三代国王ソロモンが信仰していた

・ウガリット神話では女神アスタルトという豊穣多産の女神がいる。嵐と慈悲の神バアルの妻であるという説がある。

・バビロニアではイシュタル、ギリシアではアフロディーテーと同一される。エジプトではアストレト(アースティルティト)と呼ばれ、戦の女神になっている。

・シュメールではイナンナ、ローマではヴィーナスなどもアスタルテと同じ起源を持つ。

フェニキアにおけるアスタルテについて

古代フェニキア人の都市ビフロスでは女神アスタルテが信仰されていた。この項目ではその性質について少し触れる。

地母神の一人

地母神(earthmother)とは大地の豊穣性、生命力の神格化されたもの。父神的性格を持つ天父神に対する概念。ギリシア神話のガイアとウラノスは母と父の関係である。他にもヘラ、アフロディーテ、アルテミスなども地母神の性質をもっている。

王位継承に必要不可欠

王位を継承するものはなによりもまず「わたしはアスタルテに仕える聖職者である」と宣言しなければならなかったらしい。

インドの女神カーリーに似ている

カーリーはインドのヒンドゥー教の女神である。名は黒きもの、あるいは時を意味する。血と殺戮を好む戦いの女神であり、破壊と再生を司り、また三柱の一柱であるシヴァ神の妻である。

たしかにウガリット神話では最高神イルの息子バアルの妻アスタルテとして解釈されることがあり、夫婦という見方に類似性がある。

またシュメールから出土した4000年前の円筒印章にはカーリーと同じ姿をしたアスタルテ像が刻まれていたらしい。夫の上にしゃがみこんだ姿勢で、死、愛、創造を意味しているという。

世界の真の統治者

古い世界を破壊しては新しい世界を創造するという、死と再生の儀式を繰り返す女神として畏怖されていたらしい。死者の霊魂も管理する立場にある。

月はアスタルテそのもの

死者は天界に住み、光り輝く衣装を身に着けるとされていることから、死者はは星と同一視されている。星は月の周りにあるように見えることから、月はアスタルテそのものだと思われていたらしい。

月といえばミルトンの『失楽園』では「フェニキア人がアスタルテと呼んだ、三日月の角をもつ天の女神」という表現で、悪魔アシュタロスを扱っていた。もっともこの角のイメージは「牛の頭を持つ女」というエウセビオスによるアシュトレトの影響だとゲディングズは推察している。

三日月を冠した美しい姿としても知られているらしい。

月は種まきとも関わっており、収穫の季節を告げるものでもあったらしい。だから豊穣=月というイメージなのかもしれない。

アスタルテの神殿での神聖娼婦

アスタルテの神殿では巫女たちが売春を行っていたという。この行為自体は神聖なものであり、宗教的な意味があったらしいがキリスト教世界では受け入れられず野蛮や淫猥(いんわい)なものとして扱われ、中世以降では悪魔として扱われるようになる。

ウガリット神話

ウガリット神話では女神アスタルトという豊穣多産の女神がいます。ウガリット神話における嵐と慈悲の神バアルの妻であるという説もあるそうです。

民族異教の神として悪魔として聖書に登場する文献
モアブ人の神べオルのバアルベルフェゴル『民数記』25章
シケム人の神バアル・ベリトベリト(ベリス)、バルベリト
『士師記』8章
ペリシテ人の神バアル・ゼブルベルゼブル『列王記下』1章
カナン人の神バアル・ハダト
バアルがヘブライ語的に音が変化した場合ベリ・ヤールベリアル
古代カナン人 フェニキア人の神(ビフロスなどの都市)バアル・ハダト(雷鳴の王)が「バアル」に縮められて登場。豊穣の神。アスタロト『列王記下』10章
カルタゴ:フェニキア人植民地バアル・ハモン(空と植物の神)
モレク
ソロモン王72の悪魔のひとつ、東方を収める王バアル(バエル)『ソロモン王の小さな鍵』
備考:バアルは「王」、「主人」という意味

バアル関連は意外と複雑なんですよね。整理しておきます。

17 サマリヤへ行って、アハブに属する者で、サマリヤに残っている者をことごとく殺して、その一族を滅ぼした。主がエリヤにお告げになった言葉のとおりである。

18 次いでエヒウは民をことごとく集めて彼らに言った、「アハブは少しばかりバアルに仕えたが、エヒウは大いにこれに仕えるであろう。

19 それゆえ、今バアルのすべての預言者、すべての礼拝者、すべての祭司をわたしのもとに召しなさい。ひとりもこない者のないようにしなさい。わたしは大いなる犠牲をバアルにささげようとしている。すべてこない者は生かしておかない」。しかしエヒウはバアルの礼拝者たちを滅ぼすために偽ってこうしたのである。

『列王記下』10章

16 王に言った、「主はこう仰せられます、『あなたはエクロンの神バアル・ゼブブに尋ねようと使者をつかわしたが、それはイスラエルに、その言葉を求むべき神がないためであるか。それゆえあなたは、登った寝台から降りることなく、必ず死ぬであろう』」。

『列王記下』1章

『列王記下』10章に登場したバアルが「バアル・ハダト」で、『列王記下』1章に登場したバアルは「バアル・ゼブブ(バアル・ゼブル)」で別の神というのが大事ですね。ややこしい。

悪魔ベルゼブブの元になったのはペリシテ人たちが信仰していた神バアル・ゼブルです。バアル・ハダトは雷鳴の王であり、カナン人にとっての神らしいです。

ハダトはもともとメソポタミア北部からシリア・パレスチナにかけて信仰されていた天候の神「アダド」を指します。アダトをシリアでは「ハダト」、カナンでは「ハッドゥ」と呼ぶらしいです。

重要なのはウガリット神話において天候の神「アダド」は雷と慈悲の神「バアル」と同一視されていたということです。つまり『列王記下』10章に登場する「バアル」はウガリット神話における雷と慈悲の神バアルであり、天候の神アダドでもあるということになります。

雨は作物を育てるので、豊穣にも関連してきますよね。イスラエル人が異教の神であるバアルに祈って治療してもらおうとしたり、雨を降らしてもらおうとするのは当時カナンではバアルが広範囲の地域で有名な神であり、高位の神であったからだと思います。

これはソロモンがシドンびとの女神アシタロテに従い、アンモンびとの神である憎むべき者ミルコムに従ったからである。

『列王記上』11章5節

同じ『列王記』内にバアルとアシタロテ(アスタルテ)両名が出てきますが、同じかどうかが問題ですね。聖書ではアスタルテをバアルの妻とする解釈があるそうです(図説古代オリエント事典 大英博物館版 (2004), p. 399.)。したがって同一人物ではないという解釈もできます。また中世以降ではミルトンが『失楽園』でカナン人の信仰する男性の豊穣神をバアル、女性の豊穣神をアシュタロト(Ashtaroth)と表現し、夫婦として扱っています。

WIKIにはアスタルトを「バアルの御名」として扱ったり、アナト(バアルの妹で愛と戦いの女神、あるいは狩猟や豊穣の女神)と同一視されることもあるそうです。ややこしい。御名(みな)というのはおそらく神の名の尊称だと思います。あるいは言い換えだと思います。

予備知識
「ウガリット神話」とは?意味と定義

・ウガリット神話:「ウガリット」とは現在のシリア・アラブ共和国西部の都市ラス・シャムラにあった古代都市国家だそうです。紀元前1450年頃から紀元前1200年頃に都市国家として全盛期をむかえたとWIKIにあります。また「ユダヤの聖書へとつながるカナン神話の原型ともいわれるウガリット神話集が遺跡から見つかった」とあるように、ウガリット神話はユダヤの聖書へ影響を与えているといえます。ちなみに遺跡が見つかったのは1928年と最近ですね。

関連する悪魔
ビヒモス

多神教時代にヤハウェとアナトの夫になっていたという説がある。その際にヤハウェはインドの神ガネーシャの名前を名乗ったという。ガネーシャは頭が象の神であり、ビヒモスの姿に影響を与えたという説。この説はいろいろと問題がありそうですが、一応記載しておきます。

ちなみに「堕天使 悪魔たちのプロフィール」などに書かれているこれらの説の大本の出典は以下のサイトがソースになっていると思われます。

 「万軍の主」のゾウ-神は北アフリカとエジプトでは盛んに崇拝された。そのために聖書のヤハウェにも同じ添え名が使われていた。紀元前5世紀には、ヤハウェはエレファンティーネの神聖都市では、ゾウ神と同一視されていた[5]。そこに駐屯したユダヤの傭兵は、処女母(virgin mother)ネート(古代エジプトの戦闘の女神)すなわちアナテのゾウ-配偶者と、彼らの神は同一人物だと主張した。この2人の神は当時ナイルの源と呼ばれていた場所で、雄と雌のゾウとしてトーテムにされた[6]。昔、エジプトではゾウは性を象徴する神として崇められていた。ゾウを示すトーテムの旗と象牙の加工品が王朝時代以前に出現していた[7]

出典

レヴィアタン

ウガリット神話に登場する海の神ヤムロタンがレヴィアタンと同一視されることがある。

アスタロト

バアルの妻という説、あるいは同一のものという説もある豊穣多産の女神アスタルトがウガリット神話に登場する。旧約聖書等では異教の神とされ、中世では悪魔アスタロトとして扱われるようになる。

補足知識

バアルはウガリット神話において、カナン地域を中心に崇められた嵐と慈悲の神。メソポタミアなどで信仰されていた天候神アダドはウガリットでは同一視されている。最高神イル、あるいはダゴンの子とも言われている。海の神ヤムや死の神モートは兄弟であり、敵対者。

ヤムは海や川を神格化した神。バアルは雨が地上を潤すと主張し、ヤムは川や泉で地上が潤されると主張したため対立している。争いは大神により裁定されることになり、すべてのものの源は水であるこという結論がくだり、ヤムが勝利する。その後でバアルがヤムを倒す。ヤムは竜の姿をしているらしい。

バアルはロタンを倒している。ロタンは7つの頭を持つ巨大なドラゴン。

神話には、アナトの語りによって彼女が倒すなどしたと分かる「竜[注釈 8]」と、「曲りくねる[注釈 9]」、そして「七つ頭の暴れもの[注釈 10]」といった生き物が登場する。また、モートの語りによってバアルが倒したと読める「逃げる蛇レビヤタン[注釈 11]」または「「原初の蛇」ロタン英語版[注釈 12]」と、「曲がりくねる蛇[注釈 13]」、そして「七つ頭の暴れもの[注釈 14]」といった生き物も登場する。レヴィアタン(レビヤタン)の名をヤムの別称と考える人もいる[27]が、谷川政美によれば別称かは明らかではない[28]矢島文夫は、リタン(ロタン)とはヤムと同じ種類の生き物で7つの頭を持つ竜であり、旧約聖書に登場するレビヤタンであるとしている[29]。ロタン ( ltn, Lotan ) の名はレビヤタンと語源が同じである[30]。ただし、竜のヤム=ナハル(ヤム)はしばしば蛇と関連づけられている。蛇のレビヤタンはヤム=ナハルの従者である可能性もあるが、これもはっきりしない[28]

なおレビヤタンの起源は、前述のロタンの他、アッカド神話の創世神話に登場する、女神である竜ティアマトにも求められるという[31]

出典

フェニキア

フェニキア人の中でも、ビュブロスやシドンの都市で豊穣多産の女神アスタロトが信仰されていたそうです。フェニキア人の植民地であるカルタゴではウガリット神話における嵐と慈悲の神バアルが信仰されていました。

素朴な疑問ですが、女神アスタロトはウガリット神話からフェニキア人に伝わったのでしょうか。カナン地域を中心にしてバアルやアスタロトは信仰されていましたが、ウガリットはそもそもカナン地域に含めていいのでしょうか。

WIKIではウガリット神話がカナン神話に影響を与え、カナン神話がユダヤ教の聖書へ影響を与えたとあるので、やはりウガリット神話が大本と考えていいのかもしれません。いずれにせよ女神アスタロトは地中海世界各地で広く信仰され、また周辺のさまざまな女神と習合しているらしいので曖昧でいいのかもしれませんね。機会があれば論文を探してみたいと思います。

ウガリットは紀元前30世紀から西セム人の都市国家として反映し、紀元前16世紀から紀元前13世紀頃に全盛期をむかえ、紀元前12世紀頃に「海の民」によって破壊されています。フェニキア人が都市国家を形成しはじめたのが紀元前15世紀頃です。フェニキア人発症の地であるビブロスは紀元前30世紀だったともWIKIにあります。だいぶ前からもともと住んでいたんですね。

ウガリットはフェニキアの都市の近くにあったので、広義にはウガリットやフェニキアもカナン地方に含めていいのかもしれません。カナン”人”というくくりにフェニキア人が入るといったほうがいいのかもしれません。

出典

この地図では、カナンの上にフェニキアがありますね。別に考えたほうがいいのかもしれませんね。ウガリットはフェニキアの上あたりにあります。

予備知識
「フェニキア」とは?意味と定義

・フェニキア人:自称ではなくギリシア人による呼称。ギリシア人は交易などを目的に東から来た人をフェニキア人と呼んだそうだ。紀元前15世紀頃から都市国家を形成し、紀元前12世紀頃には地中海全域を舞台に活躍した。現在でいうレバノンあたりの領域。紀元前9世紀から紀元前8世紀ごろ、アッシリアの攻撃を受けて服属し、最終的にはマケドニア系の勢力に取り込まれ(都市ティルスがアレクサンドロス大王に征服される)、ヘレニズム世界の一部となった。

フェニキア人が形成した主要都市の例:アラドス、ティルス、シドン、ビュブロス、べリュトス

関連する悪魔
アスタロト

フェニキア人はビュブロス(ビブロス)の守護神であるアスタルテを信仰していた。ビブロスはフェニキア人発祥の地であり、都市国家である。『列王記』ではソロモンが信仰した異教の神として扱われ、やがて16世紀には悪魔アスタロトとして扱われるようになる。

カナンの地

出典

カナンは「地中海とヨルダン川・死海にはさまれた地域一帯の古代の地名」。カナンの地の上の方、地中海沿岸沿いにフェニキアがあり、その上部にウガリット都市がある。

カナンの地にイスラエル人が住んでいた頃、ユダヤ教ではただひとりの神であるヤハウェを信仰するべきであるとされていた。いわゆる唯一神教である。

それにもかかわらずユダヤ人の一部が異教の神であるアスタルテを信仰したので神の怒りをかうというシーンが旧約聖書の『列王記』にある。当時のイスラエル第三代国王ソロモンがアスタルテを信仰したらしい。

つまりカナンでも一部の人間がアスタルテを信仰していたということになる。

予備知識
「カナン」とは?意味と定義

・カナン:地中海とヨルダン川・死海にはさまれた地域一帯の古代の地名。聖書では「乳と蜜の流れる場所」と表現され、神がアブラハムの子孫に与えると約束した土地であることから「約束の地」と呼ばれる。ウガリットの発掘調査に酔ってカナンに関する知識の多くが得られたらしい。紀元前3000年前には存在していたという。

・カナン人:広義では『創世記』におけるノアの孫カナンから生じた民を指す。シドン、ヘト、エブス人、アモリ人、ギルガシ人、シニ人、アルワド人、ヒビ人、アキル人、アルワド人、ツェマリ人、ハマト人の氏族を総称して「カナンの諸氏族」と呼ぶ。

・フェニキア人:セム系のアモリ人の一派が小アジアからキアシリアに移住したのが先祖の起源といわれている(小山茂樹『レバノン』37P)。つまりフェニキア人はカナン人として扱うことができる。

・アブラハム:ユダヤ人やアラブ人の系譜上の祖。『創世記』によれば、テラの子アブラハムはメソポタミア地方カルデアのウルで生まれ、カナンの地に移り住んだとされる。神(ヤフア)によってカナンの地を約束されたからである。

ややこしいが整理する。まずアダムとエバが最初の人間である。カイン、アベル、セトがその子供である。セトはカインの弟である。セトの子供はエノシュ、エノシュの子供がケナン、ケナンの子供がマハラルエル、マハラルエルの子供がイエレド、イエレドの子供がエノク、エノクの子供がメトシュラ、メトシュラの子供がレメク、レメクの子供がノアである。

そしてノアの三人の子供がセム、ハム、ヤフェトである。ハムの子供がカナンである。そしてセムの子供がアルパクシャドであり、その子供がシュラ、その子供がエベル、その子供がペレグ、その子供がレウ、その子供がセレグ、その子供がナホルである。

最後にナホルの子供がテラであり、テラの子供がアブラハムである。系譜をたどるとそういうことになる。

アブラハムの子供がイサクであり、イサクの子供がヤコブである。ヤコブは別名をイスラエルといい、ユダヤ人はヤコブの子孫である。

たしかにややこしいですね。フェニキア人もイスラエル人も系譜をたどれば同じノアの息子を系譜としています。ノアの息子セムの子孫がヤコブであり、ノアの息子ハムの子孫がカナン人(フェニキア人)ということになりますね。たどりすぎると人類みな兄弟になりそうなのでここらへんでやめておきます。

関連する悪魔
アスタロト

フェニキアの都市ビュブロスやシドンなどで豊穣の女神アスタルテが信仰されていた。当時のイスラエル人にとってアスタルテは異教の神であり、異教の神を信仰する行為は神の怒りをかった。たとえば『列王記』ではイスラエル第3代国王ソロモンがアスタルテを信仰し、神の怒りをかうシーンがある。中世以降、アスタルテはアスタロトと名前を変え、悪魔として扱われるようになる。

参考文献

出典

出典

アスタロトに関するエピソード

『士師記』:女神アスタルテ

予備知識
「士師記」とは?意味と定義

士師記(ししき):ヨシュアの死後、サムエル登場に至るまでのイスラエル人の歴史を記した書物。キリスト教においては旧約聖書に分類される。サムエルは紀元前11世紀のひととされ、ユダヤの預言者であり、士師(民族指導者)。名前の由来はヘブライ語で「彼の名は神」。後にイスラエル統一王国初代国王になるサウルの頭に油を注ぎ主(神)の言葉を伝えたとされる。サウルは神の教えに背くことがあったので、新しい王になるダビデにまた油を注いだ。

 紀元前1045-紀元前1000年頃の作成といわれている。内容はイスラエルの各部族がカナン人を侵攻するもの。神の命令に従い、カナン人を完全に滅ぼすことはせず、共存を選ぶ。

敵対的侵攻か平和的な定住だったのかは諸説あるみたいです。ただ士師は軍事的指導者でもあるので、敵対的侵攻もあったようですね。

ヨシュアはモーセの従者ヌンの子であり、モーセの後継者です。イスラエル人の祖であるアブラハムはもともと神に与えられたカナン(約束の地)に住んでいましたが、孫のヤコブの時代に飢饉によってエジプトに移住します。ヤコブの子孫のレビ族であるアムラムはモーセの父親です。エジプト人に迫害されるようになったので、もともと住んでいたカナンに帰ろうというわけですね。

関連する悪魔
アスタロト

13 すなわち彼らは主を捨てて、バアルとアシタロテに仕えたので、

14 主の怒りがイスラエルに対して燃え、かすめ奪う者の手にわたして、かすめ奪わせ、かつ周囲のもろもろの敵の手に売られたので、彼らは再びその敵に立ち向かうことができなかった。

『士師記』第二章

彼らとはイスラエルの人々のことです。文脈的にはモーセの後継者ヨシュアが死んだ後のイスラエルの人々の話です。彼らは主(神ヤハウェ)がイスラエル人のためにしてあげたことを知らずに過ごし、異教の神バアルやアスタロトを信仰していたので神がイスラエルの人々に対して起こり、災いを起こしたという感じですね。

この異教の神「アシタロテ」が中世で悪魔アスタロトとして扱われるようになります。

参考文献

出典

『列王記』:女神アスタルテ

予備知識
「列王記」とは?意味と定義

・列王記(れつおうき):旧約聖書におさめられたユダヤの歴史書のひとつ。原作者はエレミヤという説がある。エレミヤは紀元前7世紀末から紀元前6世紀半に活躍した古代ユダヤの預言者。内容はイスラエル王国の歴史。

関連する悪魔

・レヴィアタンのルーツとしての蛇信仰が『列王記』に登場する

モーセがつくった青銅の蛇の像をユダ王ヒゼキヤが破壊するシーンがある。蛇の名前は「ネフシュタン」といい、多神教の時代に古代イスラエルの人はこの像を崇拝していたという。レヴィアタンは神が創ったクジラ、ワニ、ドラゴン、蛇などさまざまな強い生き物が合成された水に関連する獣だと言われている。

・アスタロトのルーツとしてのアスタルテが登場する

ソロモン王が外国の妻を何人もめとり、女神アスタルテを崇拝してしまう。異教の神を崇拝してしまうことになるので神の怒りを買い、イスラエルは南北に分裂してしまったという。主に11章にその旨の記載がある。「これはソロモンがシドンびとの女神アシタロテに従い、アンモンびとの神である憎むべき者ミルコムに従ったからである(『列王記』11章5節)」

アスタロトが主に悪魔とされたのは中世以降らしいです。それより昔は主に異教の神として扱われていました。

ユダヤ・キリスト教は基本的に唯一神教であり、神は一人しかいないという考えです。いわゆる多神教とは真逆です。他の国の人たちが崇める神様を肯定することはできない立場になります。キリスト教は他の宗教の神様を悪魔として扱うことが多いです。

アスタロトも異教の神でした。古代フェニキアの都市ビブロス(Bybros)の守護神だったそうです。

5:これはソロモンがシドンびとの女神アシタロテに従い、アンモンびとの神である憎むべき者ミルコムに従ったからである。

33:それは彼がわたしを捨てて、シドンびとの女神アシタロテと、モアブの神ケモシと、アンモンの人々の神ミルコムを拝み、父ダビデのように、わたしの道に歩んで、わたしの目にかなう事を行い、わたしの定めと、おきてを守ることをしなかったからである。

『列王紀下11章口語訳』出典

列王記(口語訳)では「アシタロテ」という名前で出てきます。古代フェニキアの都市ビブロスの守護神であるアスタルテですね。ソロモン王がアスタルテを信仰してしまうという文脈で登場します。

予備知識
「ソロモン王は」とは?意味と定義

ソロモン王:イスラエル王国第3代国王(在位紀元前905-紀元前925年)。ダビデ王の息子。合成な神殿や宮殿を建築し、王国の最盛期を築いた。旧約聖書の中では神から知恵と見識を授けられている知恵者として扱われている(『知恵の書』)。一方で、異教の妻を多数めとり、異教の神を祀ったともいわれている(『列王記上』)。異教の神との関連からか、悪魔を使役したという伝説が生まれた。『ソロモン王の遺言』ではミカエルからもらった指輪で悪魔を使役させ、神殿を建築した話がある。イスラム教の聖典コーランにもソロモン王は特別な力を神から授けられ、動物の声を理解し、精霊、人間、動物を思い通りに動かせたとある。

ソロモン王のイラスト

ソロモン王のイラスト

ソロモン王は紀元前9世紀頃のイスラエルの王様です。ソロモンは2代目イスラエル王の初代国王ダビデの息子です。初代はサウルです。

ユダヤ教ではユダヤ人の祖がアブラハム(最初の預言者)とされています。そのアブラハムの子供がイサクです。イサクの子供がヤコブです。ヤコブは『創世記』に登場するヘブライ人の族長であり、別名をイスラエルといいます。ヤコブはイスラエル12部族の祖となるわけです。

つまりイスラエル王国では、ユダヤ教が主に信仰されており、そのユダヤ教は唯一神教であり、ひとつの神しか信仰してはいけないということになります。

そのような背景の中、イスラエル王国第3代国王ソロモンは異教の妻を多数めとり、異教の神を信仰してしまったわけです(祀った)。

「シドンびとの女神アシタロテと、モアブの神ケモシと、アンモンの人々の神ミルコム」と多数の神が列挙されていますが、その中のシドン人の女神アシタロテがアスタルテに相当します。シドンはフェニキア人の形成した都市国家の一つです。ビブロスでも進行されていたようです。

予備知識
「フェニキア」とは?意味と定義

・フェニキア人:自称ではなくギリシア人による呼称。ギリシア人は交易などを目的に東から来た人をフェニキア人と呼んだそうだ。紀元前15世紀頃から都市国家を形成し、紀元前12世紀頃には地中海全域を舞台に活躍した。現在でいうレバノンあたりの領域。紀元前9世紀から紀元前8世紀ごろ、アッシリアの攻撃を受けて服属し、最終的にはマケドニア系の勢力に取り込まれ(都市ティルスがアレクサンドロス大王に征服される)、ヘレニズム世界の一部となった。

フェニキア人が形成した主要都市の例:アラドス、ティルス、シドン、ビュブロス、べリュトス

関連する悪魔
アスタロト

フェニキア人はビュブロス(ビブロス)の守護神であるアスタルテを信仰していた。ビブロスはフェニキア人発祥の地であり、都市国家である。『列王記』ではソロモンが信仰した異教の神として扱われ、やがて16世紀には悪魔アスタロトとして扱われるようになる。

『申命記』:地名としてのアスタルテ

『申命記』では地名として「アシタロテ」が出てきます。「アシタロテとエデレイとに住んでいたバシャンの王オグを殺した」と第一章四節にあります。エジプトを脱出してモーセに導かれたイスラエル人たちがカナン(約束の地)に向かう最中に征服したエモリ人たちの領土のことですね。皆殺しにして後にイスラエル領になったそうです。バシャンの王オグは巨人の最後の生き残りとあり、まさに怪物ですね。

当時カナン地方などで信仰されていた豊穣の女神アスタロトをもじって、異国の異人が信仰する異教の神の名前をもじって「アシタロテ」としたのでしょうか。いずれにせよこうしたことが中世以降、アスタロトと名前を変え悪魔として扱われるようになったのだと思います。

予備知識
「申命記」とは?意味と定義

・『申命記(しんめいき)』:旧約聖書の一書で、モーセ五書(トーラ)のうちの5番目。著者はモーセやその後継者ヨシュアだという説がある。ヘブライ語の原題は「言葉(デヴァリーム)」という意味。日本語の申命という言葉は「繰り返し命じる」という意味の漢語。内容は死を前にしたモーセがモアブの荒れ地で民に対して行った3つの説話。

・時代背景:虐げられたイスラエル人たちを導き、エジプトを脱出して約束の地(カナン)に向かうが、モーセは神に背いたことがあり約束の地に入ることはできず、約束の地を前にして死に、埋葬される。

・モーセ五書は他に『創世記』、『出エジプト記』、『レビ記』、『民数記』がある。

関連する悪魔
アスタロト

4:これはモーセがヘシボンに住んでいたアモリびとの王シホン、およびアシタロテとエデレイとに住んでいたバシャンの王オグを殺した後であった。

『申命記』第一章

3 こうしてわれわれの神、主はバシャンの王オグと、そのすべての民を、われわれの手に渡されたので、われわれはこれを撃ち殺して、ひとりをも残さなかった。

4 その時、われわれは彼の町々を、ことごとく取った。われわれが取らなかった町は一つもなかった。取った町は六十。アルゴブの全地方であって、バシャンにおけるオグの国である。

11 (バシャンの王オグはレパイムのただひとりの生存者であった。彼の寝台は鉄の寝台であった。これは今なおアンモンびとのラバにあるではないか。これは普通のキュビト尺で、長さ九キュビト、幅四キュビトである。)

『申命記』第三章

出典

口語訳では地名として「アシタロテ」が出てくる。バシャンの王オグはエモリ人の王。エモリはアッカド語でアムル、シュメール語ではマルトゥと呼ばれ、旧約聖書ではアムル人やアムル人とも呼ばれることがある。アラム人ではない。

『旧約聖書』である『創世記』に出てくるのあの三人の息子セム、ハム、ヤペテのうちハムの子孫であり、カナンの諸部族のひとつとされている。

文脈的にはエジプトを脱出してカナンの地に侵攻しようとしているイスラエル人たちが、エモリ人の王オグを殺して、その領地を奪ったという感じだろう。『申命記』の1章はモーセが40年にわたる荒れ地の旅をふりかえる、神への忠実を説く場面らしい。

それにしてもカナン侵攻の道中イスラエル人はかなり好戦的ですね。エモリ人の王オグと王シホンがおさめる国の人々を女子供も含めて皆殺しにして家畜と戦利品を分け合ったらしいです。ヨルダン川の東側に広がるアルノン渓谷からヘルモン山までの全地域を占領しました。カナンの地へと向かう道中の地域ですね。

アシタロテに住むバシャンの王オグはレパイム(レファイム)という巨人の最後の生き残りで、ベッドが鉄製で長さが四メートル半もあるそうです。

まるで怪物ですね。

征服したバジャンの国はルベン族、ガド族、マナセの半部族に分け与えられたそうです。後のイスラエル領になります。イスラエル王国三代目の王ソロモンの時代には第六行政区となったそうです。

参考文献

出典

出典

『ダマスコ文書』:アシタロテという名前が登場する

予備知識
「死海文書」とは?意味と定義

死海文書(しかいもんじょ,英:Dead Sea Scrills):クムラン洞窟やジュダイアン砂漠で発見された2000年前の古文書。872の写本からなる。1947年に発見され、「20世紀最大の考古学的発見」といわれている。中身は旧約聖書正典が4割、外典や偽典が3割、残りが「宗団文書」といわれるエッセネ派の規則や儀式書。死海とは通常の海水の10倍の塩分濃度を持つ海のこと。生物は基本的に生息できないので死海と呼ばれる。

・ダマスコ文書:安息日戒律をとき、義の教師に言及している。死海文書でも写本が発見されたが、20世紀初頭のカイロでもすでにはっけんされている。

関連する悪魔
ベリアル

悪魔としてのベリアルは「宗団文書」のなかの「戦いの書」に記載されている。ベリアルは闇の軍団を率いるリーダー。

アスタロト

死海文書の中の『ダマスコ文書』で登場する。

「しかしダビデは、かの箱の中にあった、封じられた律法の書を読まなかった。何となれば、それは、エレアザルとヨシュア、そしてアシタロテを拝んだ長老たちが死んだ日から、イスラエルにおいて開かれなかったのである。前1世紀頃『ダマスコ文書』第5章(日本聖書学研究所訳『死海文書』より)」

どういう文脈で名前が出たかはよくわからない。解釈をすれば律法の書は読むべきもので、ダビデがそれを読まなかったということになる。アシタロテは異教徒の女神として解釈すれば、異教の神を拝んだせいで律法の書が入った箱が開かれなかったということになる。エレアザルやヨシュアはユダヤ人の指導者である。ヨシュアはモーセの後継者。

悪魔として扱われるようになった中世以降のエピソード

『ホノリウス教皇の魔導書』:水曜日に呼ばれるアスタロト

17世紀後半に出版された『ホノリウス教皇の魔導書』といういわゆるグリモアでアスタロトを召喚する方法が記されている。水曜日の夜の20時から22時に呼び出せるらしい

予備知識
「ホノリウスの魔導書」とは?意味と定義

ローマ教皇:ホノリウス3世(在位1216年-1227年)

出典

・『ホノリウスの魔導書』:17世紀後半にローマで出版されたといわれる魔導書。

 作者は13世紀初頭のローマ教皇であるホノリウス3世と言われているが、諸説ある「教会に迫害された魔術師たちが報復のために最も正統的な教皇に罪を着せたという説[1]や、後に異端として断罪されることになるテンプル騎士団を庇護したためではないかとする説[2]がある。」らしい。出典1は「アルフレッド・モーリー『魔術と占星術』有田忠郎・浜文敏訳、白水社、1993年、p.141。」、出典2は「Davies, Owen (2009). Grimoires – A History of Magic Books. Oxford University Press. pp. p.34」。

 残酷な儀式の方法が記されていることで有名らしい。黒い雄鶏の目玉をくり抜き、舌をくり抜き、心臓を取り出して羊皮紙の上に振りまくといった残酷な行為が記されている。さらに3日間断食を行い、詩篇の何節かを連祷形式で朗誦(ろうしょう;高らかに声を上げて読むこと)し、規則に従ってソロモン王の魔法円やペンタクルを使って祈りを捧げ、指定された魔法円を使って悪魔を呼び出す。

関連する悪魔
曜日月曜日火曜日水曜日木曜日金曜日土曜日日曜日
悪魔ルシファー(Lucifer)フリモスト(Flimost)アスタロト(Astarroth)シルカルデ(Silcharde)べカルド(Bechard)グランド(Guland)スルガド(Surgat)
方位西
悪魔マゴアエギムバイモンアマイモン

【関連する魔法円】

・各方位の悪魔を呼び出すための魔法円

ホノリウスの悪魔の魔法円出典

・月曜日にルシファーを呼び出すための魔法陣(Lucifer magic circle)

出典

・火曜日にフリモストを召喚するための魔法陣(Frimost magic circle)

不明

・水曜にアスタロトを召喚するための魔法陣(Astarroth magic circle)

出典

This experience is performed in its circle at night, from ten to eleven o’clock; it is designed to obtain the good graces of the King and others. Write in the circle as follows: Come, ASTAROTH! Come, ASTAROTH! Come, ASTAROTH!

CONJURATION

I conjure thee, ASTAROTH, wicked spirit, by the words and virtues of God, by the Powerful God, Jesus Christ of Nazareth,

水曜日の夜の20時から22時に呼び出せるらしいですね。魔法陣に「来いアスタロト!来いアスタロト!来いアスタロト!」と書くみたいです。

呪文(conjuration)もありますね。直訳だとこうでしょうか。「我なんじを呼び出す、邪悪な霊アスタロト、神の力や言葉によって、強大な神によって、ナザレスのイエス・キリストによって」

・木曜日にシルカルデを召喚するための魔法陣(Silcharde magic circle)

出典

・金曜日にベガルドを召喚するための魔法陣(Bechard magic circle)

出典

・土曜日にグランドを召喚するための魔法陣(Guland magic circle)

出典

・土曜日にスルガトを召喚するための魔法陣(Surgat magic circle)

出典

【出典】

・「図解 悪魔学」草野巧(新紀元社)

出典

『アブラメリンの聖なる魔術の書』:8人の下位王子(次席君主)の一人としてのアスタロト

18世紀にフランスで出回っていたと言われている『アブラメリンの聖なる魔術書』ではアスタロトは8人の次席君主の一人とされている。その上には最高君主の位があり、ルシファー、レビヤタン、サタン、ベリアルがいる。同書では悪魔を使役する方法が記されており、アスタロトは悪魔として扱われている。

予備知識
「アブラメリンの聖なる魔術の書」とは?意味と定義

・『術士アブラメリンの聖なる魔術の書』:著者は14世紀から15世紀のドイツに住んでいたユダヤ人、ヴォルムスのアブラハムという魔術師。神の真理に至る道を求めて旅する過程で、エジプトでアブラメリンと名乗る老賢者と出会い、秘術を学んだという。いわゆるグリモワール(悪魔などを呼び出して願いを叶える方法が書き記された本)のひとつ。

・18世紀フランスで出回っていて、西洋魔術中最強の魔術書ともいわれていたらしい。悪魔と交渉する前に守護天使の加護を得ることに特徴がある。悪魔は天使の指示で動いているという前提がある。

・第一書ではアブラハムがアブラメリンと出会った敬意や魔術の基本の哲学。第二書では守護天使の加護を得て悪魔を使役できるようにするための方法。第三書では悪魔を召喚して望みを叶えるときに必要な護符の掲載。

関連する悪魔
最高君主の4悪魔ルシファーレビヤタンサタンベリアル
次席君主の8悪魔アスタロトマゴトアスモデウスベルゼブブオリエンスバイモンアリトンアマイモン
その他使役可能な316の使い魔

ルシファー、サタン、ベリアル、レヴィアタンは地獄の最高四君主という記述がある(「図解 悪魔学」)。

「聖守護天使の加護を受けた後、今度は悪魔を呼び出す。加護無しに悪魔を呼び出すのは危険だからである。呼び出すのは4人の上位王子(Four Superior Princes)と総称されるルキフェル(Lucifer)、レビヤタン(Leviatan)、サタン(Satan)、ベリアル(Belial)、そして8人の下位王子(Eight Sub Princes)と総称されるアスタロト(Astarot)、マゴト(Magot)、アスモデウス(Asmodee)、ベルゼブブ(Belzebud)、オリエンス(Oriens)、パイモン(Paimon)、アリトン(Ariton)、アマイモン(Amaimon)の、計12人の大悪魔である。 魔術師は、彼ら大悪魔とその配下の使い魔たちに自分への忠誠を誓わせることにより、彼らを使役する資格を得る。」

「注釈者たちが指摘するところでは、アブラハムは魔術や召喚や邪悪な目的でおこなったりしてはならないと主張していながらも、アブラハムの述べる実践や目的は召喚魔術すれすれであって、たとえば飛行、未来の透視、自分や動物の変身、邪霊を招喚して従わせること、嵐を起こすこと、奇蹟的な治療、幻影を生み出すことなどがある。しかしながらアブラハムの実践した魔術は、ユダヤ教徒キリスト教の典礼をほぼ完璧に結びつけているかに見える(『悪魔の辞典』37P)。」

【出典】

・「図解 悪魔学」草野巧(新紀元社)

・「悪魔の辞典」フレッド・ゲディングズ

出典

『アルマデルの魔術書』:悪魔の反逆と堕天について教えてくれるアスタロト

予備知識
「アルマデルの魔導書」とは?意味と定義

・「アルマデルの魔導書」:悪魔を使役する方法などを記すグリモワールのひとつ。『レメゲトン』(『ソロモンの小さな鍵』)のひとつ。ほかにはゴエティア、テウルギア・ゴエティア、アルス・パウリナ、アルス・ノヴァがある。「アルマデルの魔導書」は「アルス・アルマデル・サロモニス」であり、『ソロモン王のテウルギアの書 第二章』とも呼ばれるらしい。内容は天の四つの高度と黄道十二宮360度の角度を支配する大精霊についての書。

・17世紀のフランスで流行した

・悪魔を召喚して知識を得るためにも用いられる

出典

「グリモアに類する書物で、数多くの像(色のつけられた蝋でつくる)を扱っている。これらの像は基本方位の『天使』を呼び出し、四つの『高み』を支配する『四方の霊的存在』を指名するために使用される(『悪魔の辞典』、65P)。」

・白魔術の書としても有名らしい。つまり天使を召喚するためにも用いられる。もちろん悪魔に関するものも記されている。

・叶えたい願いに対応する天使や悪魔のシジル(印形)をみつけ、新しい羊皮紙にシジルを描きこむ。そうするとタリスマン(護符)ができる。悪魔を召喚したらタリスマンに力を入れてもらい、その後願いを叶えるらしい。「アルマデルの魔術書」には召喚用魔法円の記述はなく、悪魔を召喚する方法は書いていない。別の魔導書を利用して自分で召喚してタリスマンに力を入れてもらう必要があるらしい。

関連する悪魔

レヴィアタン:「『アルマデルの魔導書』ではレビヤタンとアスモデウスは悪魔の悪徳の恐ろしさを教えてくれる悪魔である(『図解 悪魔学』,40P)」とある。

・アスタロト:「ルシファー、ベルゼブブとともに悪魔の反逆と堕天について教えてくれる悪魔(同上,46P)」

参考文献

・『図解 悪魔学』(新紀元社)

・『悪魔の辞典』(青土社)

『レメゲトン』:公爵としてのアスタロト

公爵はソロモン王の72悪魔の中では、第二位の位階。第一は王。

・40軍団の長。過去、現在、未来について正しく答え、すべての秘密を暴くことができる。教養学に通じているが、望めば天使や彼自身の堕落について教えてくれる。

・右手に毒蛇を持ち、ドラゴンのような地獄の獣にまたがり、天使の姿で出現する。近づくと臭い息に害される。

予備知識
「ソロモン王の72柱の悪魔」とは?意味と定義

王>公爵>王子>侯爵>長官>伯爵>騎士

使用するべき金属は順に 金>銅>すず>銀>水銀>銅と銀同量の合金>鉛

数値名前英語表記特徴見た目備考
1バエルBael66軍団の長。東を治める王。人を透明にする力がある。猫、ヒキガエル、人間の姿になる。あるいは1度に3つの姿になる。
2アガレスAgares公爵31軍団の長。東の権力に属する。あらゆる言語を教え、権威を失墜させ、地震を起こす力がある。年老いた白髪の男の姿でワニにまたがり、拳にオオタカを乗せている。
3ヴァッサゴVassago王子26軍団の長。過去と未来を言い当て、紛失物を見つける力がある。
4サミジナ(ガミジン)Samigina or Gamigin侯爵30軍団の長。馬の声で話し、教養学科すべてを教え、罪人の死後について解説する。小さな馬かロバの姿で出現する。術者が望めば人間の姿になる。ガミュギュンともいう。死者の霊を呼びあす情報を得るために召喚される。エノク文書では、「海でおぼれた魂が空気の体をもってはっきりとあらわれ、魔術師の命令にしたがって質問に答えるようにする」とかかれている。降霊術のデーモンの中でも最も人気があり、召喚士が相談したがる死者の霊を呼び出す達人。
5マルバスMarbas長官36軍団の長。隠された秘密の事柄について答え、病気と治癒をもたらし、機械工学についての知恵と知識を与える。人間を変身させられる。ライオンの姿。術者が望めば人間の姿になる。
6ヴォレフォールValefor公爵10軍団の長。使い魔になる。盗みをそそのかすよう人をそそのかすことがある。ロバの頭をしたライオンの姿。
7アモンAmon侯爵40軍団の長。過去と未来のすべてを語り、友人間に不和をもたらしたり、仲直りさせたりする。蛇の尾を持つ狼のような姿。術者が命じればカラスの頭をもつ人間の姿になる。ただ1度の召喚で多くの願いを叶えてくれるから召喚士の間に人気がある。
8バルバトスBarbatos公爵30軍団の長。太陽がいて座にあるとき、第お軍団を率いた4人の高貴な王を伴って出現うする。鳥の声、その他の生き物の声を理解できるようにしてくれ、魔術で隠された財宝を暴く。過去と未来のすべてを知り、友人や権力者を懐柔してくれる。もと力天使。
9パイモンPaimon200軍団の長。芸術、科学など知りたいことをすべて教えてくれる。人に威厳を与え、みなが服従するようにし、使い魔を与えてくれる。最初は吠えるように話すので聞き取れるように話す必要がある。トランペット、シンバルなどを打ち鳴らす大勢の霊の後から、栄光の冠をかぶり、ヒトコブラクダに乗り、人の姿で出現する。
10ブエルBuer長官50軍団の長。哲学、倫理学、自然学、論理学、薬草学を教えてくれる。急性熱病を癒やし、使い魔を与えてくれる。太陽がいて座にあるとき、射手座と同じケンタウロスの姿で出現する。
11グシオンGusion公爵40軍団の長。過去・現在・未来すべてを見通し、聞けば意味や解答を教えてくれる。友情をとりもち、だれにでも栄誉と威厳を与えてくれる。犬頭人の姿で出現する。
12シトリSitri王子60軍団の長。異性の愛を燃え上がらせ、人を裸にすることができる。豹の頭、グリフォンの翼がある姿で出現する。術者が命じれば美しい人の姿になる。
13ベレトBeleth85軍団の長。人に愛情を起こさせる力がある。術者は左手中指に銀の指輪をし、ベレトに敬意を払い丁寧に接しなければならない。楽隊の後ろから青ざめた馬に乗って出現する。恐ろしい姿で出現するので、勇気をもって魔法杖で命じなければならない。ビレス、ビュレトともいう。レギナルド・スコットによれば第一位。グリモアの伝統におけるデーモンの王であり、地上に現れるのをいやがり、しぶしぶあらわれるときでさえオーケストラにかしずかれて激怒している。中世の学者たちはベレトが堕天したトロニ(座天使)だと主張した。エノクのデーモンのビレトと混同されることがある。
14レライエ(レライカ)Leraje or Lelaikha侯爵30軍団の長。争いを起こし、傷口を化膿させる力がある。緑の狩人服を着て、弓と矢筒を携えて出現する。
15エリゴスEligos公爵60軍団の長。隠されたこと、未来のこと、戦争のことに詳しく、支配階級人々に愛を起こさせる。槍、軍旗、蛇を携え、騎士の姿で出現する。
16ゼバルZepar公爵26軍団の長。女性に男性への愛を起こさせ、2人を結びつける力があるが、不妊症にすることもできる。兵士のように赤い鎧を着て出現する。
17ボティスBotis伯爵または長官60軍団の長。過去と未来のすべてを語り、友と敵を和解させる。醜い毒蛇の姿で出現する。命令すれば輝く剣を手に持ち、立派な歯と二本の角のある人の姿になる。
18バシンBathin公爵30軍団の長。薬草と宝石の効能を知っており、人間を他国まで瞬間移動させられる。 蛇の尾を持つ力強い男の姿で、青ざめた馬に乗って出現する。
19サロスSallos公爵30軍団の長。異性への愛を起こせる力がある。"侯"爵の冠をかぶり、ワニに乗り、堂々たる兵士姿で出現する。
20プルソンPurson22軍団の長。秘密の財宝や過去、現在、未来のことを語り、よき使い魔を与えてくれる。トランペットが鳴り響く中、手に凶暴な毒蛇を携え、熊に乗り、ライオンの顔を持った人間の姿で体裁よく出現する。人間の姿にも霊的な姿にもなれる。
21マクラスMarax侯爵または長官30軍団の長。天文学、教養学、薬草と宝石の効能を教え、よき使い魔を与えてくれる。人間の姿を持つ大きな牡牛の姿で出現する。モラクス、フォライー、フォラクスともいう。ミノタウロスやモレクが起源かもしれない。魔法の石や薬草の使用法を教え、占星術といった学問を説いてくれる。使い魔も与えてくれる。
22イポスIpos伯爵または王子36軍団の長。過去、現在、未来のことを知り、機知と大胆さを与えてくれる。ライオンの頭、ガチョウの足、野兎の尾をもった天使の姿で出現する。
23アイムAim公爵26軍団の長。人を賢くし、プライベートな問題を解決する。美しい人の体に3つの頭を持つ姿で出現する。蛇、額に二つ星のある人、子牛の頭。毒蛇にまたがり、てにもった松明で火事を起こす。
24ナベリウスNaberius侯爵19軍団の長。技芸、科学、修辞学の才を授け、失墜した威厳と栄誉を取り戻してくれる。黒い鶏の姿で出現し、魔法円の周りで羽ばたく。しわがれ声で話す。
25グラシア・ラボラスGlasya-Labolas伯爵または長官36軍団の長。すべての技芸と科学および過去、現在、未来について教え、友から敵からも愛されるようにし、人の姿を見えなくすることができる。流血の殺人でも特に優れた人(大家)である。グリフォンのような翼を持つ犬の姿で出現する。
26ブネまたはビメBune or Bime公爵30軍団の長。人を金持ちにし、賢く雄弁にし、要求に正しく応える。三つの頭(犬、グリフォン、人間)を持つドラゴンの姿で出現し、高くきれいな声で話す。
27ロノヴェRonove侯爵または伯爵19軍団の長。修辞学、言語の知識を教授し、よき従者を与え、友からも敵からも好感を持たれるようにしてくれる。怪物の姿で現れる。
28ベリトBerith公爵26軍団の長。過去、現在、未来について正しく答え、卑金属(貴金属に該当しない金属,鉄やニッケルなど)を金に変え、人に確固とした威厳を与える。赤い服、赤い馬、金の王冠をかぶった兵士の姿で出現し、澄んだ穏やかな声で話す。
29アスタロトAstaroth公爵40軍団の長。過去、現在、未来について正しく答え、すべての秘密を暴くことができる。教養学に通じているが、望めば天使や彼自身の堕落について教えてくれる。右手に毒蛇を持ち、ドラゴンのような地獄の獣にまたがり、天使の姿で出現する。近づくと臭い息に害される。
30フォルネウスForneus侯爵29軍団の長。人を修辞学に熟達させ、言語の知識とよい評判を与える。友人から愛されるように敵からも愛されるようにしてくれる。巨大な海獣の姿で出現する。
31フォラスForas長官29軍団の長。薬草と宝石の効能、論理学、倫理学を享受する。望めば透明人間にしてくれ、長寿と雄弁をもたらす。宝物やなくしたものも見つけてくれる。頑強な男の姿で出現する。
32アスモダイAsmoday72軍団の長。美徳の指輪をもたらし、算術、天文学、幾何学、工芸を完璧に教えてくれる。要求には完全に応え、人を見えなくすることができ、財宝の在り処も教えてくれる。牡牛、人、牡羊の三つの頭と蛇の尾がある姿で、地獄の竜にまたがり、口から日を吐きながら、旗付きの槍をもって出現する。レギナルド・スコットによれば第三位。
33ガアプGaap王子または長官66軍団の長。人を無感覚、無知にする力がある。哲学、教養学を教えてくれる。愛と憎悪の感情を起こさせたり、アマイモン(『アブラメリンの書』によれば8人の下位王子のうちの1人。『ゴエティア』では四台悪魔のうちの一人。アマイモンの配下にはアスモデウス、ガープ、セーレがいる)に属することを聖別できる。過去、現在、未来について完璧に応え、人を別な王国まで瞬間移動させることができる。太陽が南方の宮にあるとき、4人の偉大で強力な王を引き連れて人の姿で出現する。
34フールフールFurfur伯爵26軍団の長。魔法の三角形の中では天使の姿になる。男女間の恋を激しくし、稲妻、雷、突風や大嵐を起こす。秘密の神聖な事柄についても語ってくれる。炎の尾を持つ牡赤鹿の姿で出現する。
35マルコシアスMarchosias侯爵30軍団の長。もと主天使。ソロモン王に1200年たったら元の地位に戻りたいと話したという。最初はグリフォンの翼、蛇の尾を持った狼の姿で口から火を吐きながら出現する。術者の命令によって人の姿に変る。
36ストラス(ストロス)Stolas or Stolos王子26軍団の長。天文学や薬草と宝石の効能について教えてくれる。強大な鳥の姿で出現する。後に人の姿になる。
37フェネクスPhenex侯爵20軍団の長。科学について素晴らしい講義をする。素晴らしい詩人であり、人の願いも喜んで叶えてくれる。フェニックス(不死鳥)の姿で出現する。子供の声で話し、甘美な声で歌う。聞き惚れてはいけないらしい。「甘い舌をもつアラビアの鳥」に由来する。
38ハルファス(マルサス)Halphas or Malthus伯爵26軍団の長。塔を建て、武器弾薬を用意し、兵士を適所に配備する能力がある。野生の鳩の姿で出現する。しわがれた声で話す。
39マルファスMalphas長官40軍団の長。家や高い塔を建て、敵の望み、考え、行動を知らせ、よい使い魔を与えてくれる。犠牲を捧げると喜んだふりをして人を騙す。カラスの姿で出現する。命じられると人の姿になる。しわがれ声で話す。
40ラウムRaum伯爵30軍団の長。王宮から財宝を盗み、命じられた場所に財宝を運んでくれる。町を破壊し、人の威厳を傷つけ、過去、現在、未来のすべてを語り、友と敵の間に愛を芽生えさせる。カラスの姿で出現する。命じられると人の姿になる。
41フォカロルFocalor公爵30軍団の長。風と海を操って人を溺れさせ、転覆させる力がある。そうさせないように命令すれば何も傷つけない。グリフォンの翼がある人の姿で出現する。
42ウェバルVepar公爵29軍団の長。水の支配者で、武器武具弾薬を積んだ船を導いてくれる。傷を化膿させたり、ウジをわかせたりして人を3日で殺せる。マーメイドの姿で出現する。
43サブノックSabnock侯爵50軍団の長。高い塔、城、町を作り、武装させる力がある。人の傷、腫れ物を腐らせたりウジをわかせたりして何日も苦しませることができる。ライオンの頭をした武装した兵士の姿で、青ざめた馬に乗って出現する。戦いの傷を治癒する力(あるいは凄まじい傷をおわせる力)を与えてくれる。
44シャックスShax侯爵30軍団の長。人から視覚、聴覚、理解力を奪う力がある。王の財産、馬も盗む。隠されたものを見つけ出し、ときによい使い魔を与えてくれる。魔法の三角形の外側に出ると嘘ばかりつく。野鳩の姿で出現する。しわがれた小さな声で話す。
45ヴィネVine王または侯爵36軍団の長。隠されたもの、魔女、魔術師を見つけ出し、過去、現在、未来を見通す。命令されれば塔を建てたり、巨石の壁を打ち壊したり、嵐を起こし海を大荒れにすることができる。ライオンの姿で、黒い馬に乗り、手には毒蛇をもって出現する。
46ビフロンBifrons伯爵60軍団の長。天文学、幾何学、その他の芸術や科学、宝石や樹木の効能についての知識を授けてくれる。死体を取り換えたり、別な場所に移動したり、墓にみかけだけのろうそくをともしたりする。怪物の姿で出現する。命令によって人の姿になる。
47ウヴァル(ヴアル、ヴォヴァル)Uvual or Vual or Voval公爵37軍団の長。女性の愛を得させ、過去、現在、未来について語り、敵味方に友情をもたらす。たくましいヒトコブラクダの姿で出現する。命令によって人の姿になる。不完全なエジプト語を話す。
48ハーゲンディHaagenti長官33軍団の長。人を賢くし、物質の変成術を教え、卑金属を金に、水をワインに、ワインを水に変えられるようにする。グリフォンの翼を持つ牡牛の姿で出現する。命令によって人の姿になる。
49クロセルCrocell公爵48軍団の長。隠された神秘を明かし、幾何学、教養学を教授する。命じられると、なにもないところに激流の騒音を起こす。湧き出す水を温泉に変える。天使の姿で出現する。
50フルカスFurcas騎士20軍団の長。哲学、天文学、修辞学、論理学、手相、秘占いを完璧に教えてくれる。長いあごひげと灰色の頭髪をはやしたひどい老人の姿で青ざめた馬に乗って出現する。
51バラムBalam40軍団の長。過去、現在、未来のことを正しく教えてくれる。人を透明にしたり、機知に富ませる力もある。牡牛、人、牡羊の三つの頭、蛇の尾、燃える目があり、拳にオオタカを乗せ、恐ろしい熊に乗って出現する。しわがれた声で話す。
52アロセスAlloces公爵36軍団の長。天文学、教養学を享受し、よき使い魔をもたらす。真っ赤なライオンの顔、燃える目をした兵士の姿で立派な馬に乗って出現する。しわがれた大声で話す。
53カミオ(カイム)Camio(Caim)長官30軍団の長。優れた論争家であり、鳥、去勢牛、犬などの生き物の鳴き声から、水音の意味まで理解する能力を与えてくれる。未来も教えてくれる。ツグミの姿で出現する。尖った剣を持つ人の姿になる。答えるときは燃える肺灰や石炭の中にいるように見える。
54ムールムール(ムールマス)Murmur or Murmus公爵または伯爵30軍団の長。哲学を完璧に教えること、死者の魂を無理やり出現させ、質問に答えさせることができる。トランペットを鳴らす従者に先導されて、公爵の冠をかぶった戦士の姿でグリフォンに乗って出現する。耳障りな声で話す。エノク文献では堕天した座天使の一人。
55オロバスOrobas王子20軍団の長。過去、現在、未来について告げ、威厳や高位聖職者の地位を与えてくれる。友にも敵にも好意をもたせ、神性及び世界の創造について教えてくれる。術者に誠実なので、悪霊を使ってたぶらかすことはない。馬の姿で出現する。命じられると人の姿になる。
56グレモリィ(ガモリ)Gremory or Gamori公爵26軍団の長。過去、現在、未来について語り、隠された財宝の在り処を告げ、老若問わず女性に愛されるようにしてくれる。腰に公爵夫人の冠を結び、美しい女性の姿で、立派なラクダに乗って出現する。ゴモリともいう。デーモンの多くは獣的な姿や魔物じみた姿で現れるが、ゴモリ一人だけは美しい女として現れる。
57オセ(ヴォゾ)Ose or Voso長官30軍団の長。教養学を使いこなせるようにし、神聖かつ秘密の事柄を解明してくれる。人の姿を望み取りに変えることができる。豹の姿で出現し、すぐに人の姿になる。
58アミィ(アヴナス)Amy or Avnas長官36軍団の長。天文学、教養学に卓越した知識を授け、よき使い魔をもたらし、霊が守護する財宝について語る。燃え上がる炎として出現し、しばらくして人の姿になる。
59オリアックス(オリアス)Oriax or Orias侯爵30軍団の長。占星術を教え、人を変身させ、動かし難い威厳と高い地位を与える。敵からも友からも好かれるようにしてくれる。大蛇の尾を持つライオンの姿で、たくましい馬に乗り、右手にシューシューいう2匹の大蛇をもって出現する。まばたきする間に複雑な占星術を教えてくれる。
60ウァブル(ナフラ)Vapula or Naphula公爵36軍団の長。すべての手工芸、専門技術、哲学やその他の科学についての知識を授ける。グリフォンの翼を持つライオンの姿で出現する。
61ザガンZagan王または長官33軍団の長。人を機知に富ませ、ワインを水に、血をワインに、水をワインに変える。あらゆる金属を有力な通貨に変えることが出来、愚か者を賢者にすることもできる。グリフォンの翼を持つ牡牛の姿で出現し、しばらくして人の姿になる。
62ヴォラク(ヴァラク、ヴァラ、ウァラク)Volac or Valu or Ualac長官38軍団の長。隠された財宝について明かし、大蛇の居場所を教える。天使の翼を持つ子供の姿で、双頭のドラゴンに乗って出現する。
63アンドラスAndras侯爵30軍団の長。不和を撒き散らす者であり、注意しないと術者もその仲間も殺されてしまう。漆黒のワタリガラスの頭を持つ天使の姿でたくましい黒狼に乗り、輝く鋭い剣を振り回しながら出現する。
64ハウレス(ハウラス、ハウラス、ハヴレス、フラウロス)Haures or Hauras or Havres or Flauros公爵36軍団の長。過去、現在、未来のすべてに通じている。魔法の三角形の外では嘘ばかりつく。最後には神性と世界の創造、霊たちの堕落について語ってくれる。術者を他の霊から守り、望めば敵を破壊し焼き尽くす。頑強で恐るべき豹の姿で出現する。命令すると爛々(らんらん)と燃える目をした恐ろしい顔つきの人の姿になる。
65アンドレアルフスAndrealphus侯爵30軍団の長。幾何学、測量術、天文学について完璧な知識と鋭敏さを授け、人を鳥の姿にもできる。騒音とともに孔雀の姿で出現した後、人の姿になる。
66シメイェス(キマリス)Cimeies or Kimaris侯爵20軍団の長。アフリカの霊すべてを支配している。文法、論理学、修辞学を完璧に教授し、失われたもの、隠されたもの、財宝などを発見してくれる。勇敢な戦士の姿で、黒い騎馬に乗って出現する。
67アムドゥシアス(アムドゥキアス)Amdusias or Amdukias公爵29軍団の長。望んだ通りに樹木を曲げることができる。ユニコーンの姿で出現する。求めに応じてすぐにではないが、トランペットや楽器の音を響かせながら人の姿になる。
68ベリアルBerial80軍団の長。ルシファーの次に創造された悪魔。聖職や議員の地位をもたらし、友からも敵からも好かれるようにしてくれる。よき使い魔をもたらす。美しい二人の天使の姿で炎の戦車に乗って出現する。穏やかな声で、天使たちと戦って自分が最初に天から追放されたと言明する。生贄を要求する。解放されたデーモンのうちもっとも強大な者ベリアルが崇拝され、祈りと生贄がバビロニア人によって捧げられた。レギナルド・スコットによれば第二位。
69デカラビアDecarabia侯爵30軍団の長。宝石や鳥の効能を教えてくれる。また、鳥の偽物を作り、本物そっくりに飛ばしたり、さえずらせたりできる。五芒星の形で出現する。命令すると人の姿になる。
70セエレ(セアル,セイア)Seere or Sear or Seir王子29軍団の長。全地球でも一瞬のうちに駆け抜け、あっという間にたくさんのものをどこからどこへでも運んでくれる。盗まれたもの、隠された財宝についても教えてくれ、望めば何でも喜んでやってくれる。美しい男の姿で、翼のある馬に乗って出現する。
71ダンタリオンDantalion公爵36軍団の長。すべての男女の秘密や考えを変えてしまうこともできる。どんな人間の偽物も幻影も作り出せ、それをどこにでも出現させることができる。人に愛情を興させることもできる。たくさんの男女の顔がある人の姿で、右手に本を持って出現する。
72アンドロマリウスAndromalius
参考文献

・「図解 悪魔学」(新紀元社)

・『悪魔の辞典』(青土社)

『悪魔の偽王国』:公爵としてのアスタロト

16世紀に書かれた『悪魔の偽王国』のリストの中にもアスタロトは登場し、役職は公爵となっている。

予備知識
「悪魔の偽王国」とは?意味と定義

・『悪魔の偽王国』(Pseudomonarchia Daemonum):16世紀頃にオランダ南部生まれの医師ヨハン・ヴァイアー(1515-1599)の主著『悪魔の幻惑について』(1577年)の付録として書かれたもの。悪魔会の重鎮たちの名簿とその役職、特徴、召喚方法の説明がある。『ソロモン王の小さな鍵』の第一章『ゲーティア』に酷似しているため、ゲーティアの原型ではないかという説がある。

・ヨハン・ヴァイアーは優れた医師で、憑依は精神の錯乱だと見抜き、魔女狩りの行き過ぎたやり方を先駆けて批判した人々の一人

数値悪魔の名前役職
1バエル東方の王
2アガレス東方の公爵
3マルバス長官
4プルフラス王子、公爵
5アモン侯爵
6バルバトス伯爵、公爵
7ブエル長官
8グソイン公爵
9ボティス長官
10バシム公爵
11プルサン
12エリゴル公爵
13ロレイ侯爵
14ヴァレファル公爵
15モラクス伯爵、長官
16イペス伯爵、王子
17ナベリウス侯爵
18グラシアラボラス長官
19ゼパール公爵
20ビレト
21シトリ王子
22パイモン
23ベリアル
24ブネ公爵
25フォルネウス侯爵
26ロネヴェ侯爵、伯爵
27ベリト公爵
28アスタロト公爵
29フォラス長官
30フールフール伯爵
31マルコシアス侯爵
32マルファス長官
33ヴェパール公爵
34サブナク侯爵
35シドナイ
36ガアプ長官、王子
37チャクス侯爵
38プセル公爵
39フルカス騎士
40ムールムール公爵、伯爵
41カイム長官
42ラウム伯爵
43ハルファス伯爵
44フォカロル公爵
45ヴィネ王、伯爵
46ビフロンス情報なし
47ガミジン侯爵
48ザガム王、長官
49オリアス侯爵
50ヴァラク長官
51ゴモリー公爵
52デカラビア情報なし
53アムドゥシアス公爵
54アンドラス侯爵
55アンドロアルファス侯爵
56オゼ長官
57アイム公爵
58オロバス王子
59ヴァブラ公爵
60シメリエス侯爵
61アミィ長官
62フラウロス公爵
63バラム
64あろせる公爵
65ザレオス伯爵
66ウアル公爵
67ハアゲンティ長官
68フェニックス侯爵
69ストラス王子
参考文献

・『図解 悪魔学』

『驚嘆すべき物語』:座天使の君主としてのアスタロト

1712年にミカエリス神父によって書かれた『驚嘆すべき物語』ではアスタロトは第一階級となっている。ベルゼブブやアスモデウスとおなじ階級である。ただし階級内でも差があるようで、順番からすると5位である。上には順にベルゼブブ、レビヤタン、アスモデウス、バルベリトがいる。さらにその上にはルシファーがいると言われている。もっとも、リストは修道女に憑依した悪魔のリストであり、憑依していないルシファーなどの悪魔はリストにない。

アスタロトは座天使の君主であり、誘惑する罪は「怠惰」で、敵対聖者は聖バルトロメオ。

予備知識
「驚嘆すべき物語」とは?意味と定義

・『驚嘆すべき物語』:1612年にエクソシストのセバスチャン・ミカエリス神父によってかかれたもの。フランドルの宗教家。1610年に起きたフランスのエクサン=プロヴァンスの女子修道院で起きた悪魔憑き事件で神父は悪魔祓いを行った。そのとき修道女マドレーヌに憑依していた悪魔春ベリトから悪魔の名前や特徴、それと戦う聖者の名前を聞きだした。

・敵対する聖者に胃のxtうておくと悪魔の召喚もより安全に行えるらしい。

悪魔の名前階級天使時代の位階誘惑する罪敵対する聖者
ベルゼブブ第一階級熾天使の君主驕慢(きょうまん)
※おごりたかぶること
聖フランチェスコ
レビヤタン第一階級熾天使の君主不信仰聖パウロ
アスモデウス第一階級熾天使の君主貪欲・不貞洗礼者聖ヨハネ
バルベリト第一階級智天使の君主殺人・冒涜(ぼうとく)
※崇高なものや神聖なもの、または大切なものを、貶める行為
聖バルナバ
アスタロト第一階級座天使の君主怠惰聖バルトロメオ
ウィリネ第一階級座天使の2位短気聖ドミニコ
グレシル第一階級座天使の3位不浄・不潔聖ベルナルドゥス
ソネイロン第一階級座天使の4位敵への憎悪聖ステパノ
カレアウ第二階級能天使の君主頑固聖ウィンケンティウス
カルニウェアン第二階級能天使の君主卑猥・厚顔無恥福音書記聖ヨハネ
オエイレト第二階級主天使の君主贅沢聖マルティヌス
ロシエル第二階級主天使の2位恋情聖バシリウス
ウェリエル第二階級権天使の君主不従順・肩こり聖ベルナルドゥス
ベリアス第三階級力天使の君主傲慢(ごうまん)・見栄・不貞聖フランチェスコ
オリウィエル第三階級大天使の君主残酷・無慈悲聖ラウレンティウス
イルウァルト第三階級天使の君主不明不明
参考文献

・『図解 悪魔学』(新紀元社)

ルーダンの悪魔憑き事件:修道女に憑依したアスタロト

予備知識
「ルーダンの悪魔憑き事件」とは?意味と定義

「私は、この修道女から立ち去るとき、針ほどの長さの切り口を心臓の下につくり、その切り口は彼女の下着、胴着、上衣を血で染めるであろうことを約束します。そして、明日、5月20日の日曜日午後5時、悪魔のグレジルとアマンも同様にしてやや小さい切り口をつくることを約束しますー私は、レヴィアタン、ベヘモト、べーリその他の仲間たちがした約束、すなわち、出るときには聖十字架教会の登録簿に署名するという約束を認めます。1629年5月19日記 アスモデウス(署名)(『魔法 その歴史と正体』K・セリグマン著 平田寛訳 人文書院刊)」

フランスのルーダンという田舎町の修道院でおきた悪魔憑き事件です。ある美男子の司教(ユルダン・グランディエ)が新しくこの町に来たことからはじまります。司教は美男子なので町の婦人たちの注目の的になり、街中に噂が広がっていきました。司教は多くの女性と関係をもつことになります。

そうした状況をみて、司教を破滅させたいと考えた政治的敵対勢力が「悪魔憑き現象」をでっちあげたのです。修道院長ジャンヌ・デ・ザンジュなどの人間に多くの悪魔が取り憑き、取り憑いた原因は司教が修道院に投げ込んだバラの中に悪魔がいたからだ、と調査によって暴露されたのです。アスタロトやレヴィアタン、アスモデウスなど有名な悪魔が取り憑いています。

デ・ザンジュの証言によれば彼女に取り憑いているのはアスタロトであることが判明しました。

悪魔憑き騒動が始まったのは1632年の10月で、裁判が開かれましたが裁判所や医者は悪魔によるものではないと判断して一旦はおさまりました。しかし1633年の夏に再び最大の敵対勢力である枢機卿リシュリシューが動き、腹心のローバルドモンが司教を取り調べ、アスモデウスの契約書などが証拠として提出されたのです。

結局1634年8月18日に、司教グランディエは生きたまま火刑になったそうです。

関連する悪魔

ネフタロン、チャム、ザブロン、レヴィアタン、アーマン、イサカーロン、バラーム、アスモデウス、アチャス、アリクス、ベヘモット、ユリエル、アスタロト

『失楽園』:サタンとともに神と敵対する悪魔としてのアスタロト

予備知識
「失楽園」とは?意味と定義

『失楽園』(1667年):ジョン・ミルトンによる旧約聖書の『創世記』をテーマにした叙事詩。ヤハウェに叛逆して一敗地にまみれた堕天使のルシファーの再起と、ルシファーの人間に対する嫉妬、およびルシファーの謀略により楽園追放に至るも、その罪を自覚して甘受し楽園を去る人間の偉大さを描いている(WIKIより)。

ジョン・ミルトン(1608-1674年):イギリスの詩人。代表作に『失楽園』やダンテ『神曲』などがある。『失楽園』ではサタンに関する記述があり、ダンテ『神曲』では有名なルシファーの挿絵がある。『失楽園』は旧約聖書の『創世記』をテーマにした叙事詩。堕天使ルシファーの再起やルシファーの人間に対する嫉妬、楽園追放などの内容。キリスト教文学の代表作。ミルトンによる旧約聖書の解釈はルシファーに関する逸話に影響を与えた。

【関連する悪魔】
悪魔の名前出自 由来となった神などメモ
1サタン天使のときの名前はルシファー。堕天した。天使の三分の一を誘惑して神に背を向けさせるほど力とカリスマ性があった恐ろしい堕天使。
神が御子(イエス)を想像し、天使の首領にすると宣言したため、ルシファーは怒り堕天する。
怒りのあまりサタンの頭が割れ、罪という娘が生まれ、サタンと罪の間に死という息子が誕生した。
天国を奪えないと判断したサタンは人間へ目を向け、エデンの園にいたアダムとイヴを誘惑する。
2ベルゼブブサタンに次ぐ悪魔。古代のエクロンの神。ベルゼブブは地獄で立ち上がり、一時的な平和を求めるべきか天にたいして戦いを起こすべきかと地獄の会議によびかけた。
ベルゼブブは演説を行う。ベルゼブブは天使の名前を失ったことに対する懸念を述べ、謀反を起こしただけで地獄の王と呼ばれることに嘆く。
神に背をむけるやりかたをもって地上と人間への直接攻撃を提案したのはベルゼブブ。
3モロク古代のアンモン人の神モレク。盲目の激怒と戦のデーモン。「恐るべき王」。「アンモンの人々の神である憎むべきもの(『列王記上』第十一章七節)」。
アンモン人の神は幼児の燔祭(はんさい)を求めたと言われている。いわゆる生贄である。
4ケモシ古代のアンモン人の神ケモシュ。ケモス。ケモスの別称がペオル。ケモシュが「モアブ人の神である憎むべきもの」と『列王記上』第十一章七節にあるらしい。
5バアル古代フェニキアの男性の豊穣神。バーリム。ミルトンは男の象徴して扱う。
6アスタロト古代フェニキアの女性の豊穣神。アシュタロス。ミルトンはバールとアシュタロスをそれぞれ男および女のデーモンの頭目(バーリムとアシュタロス)とみなしている。
二人は夫婦として崇拝されている。フレッド・ゲディングズによればミルトンはフェニキア人が信仰したアスタルテを「三日月の角をもつ天の女神」と表現したが、 
古代の文献ではそのようになっていないという
。歴史家のエウセビオス(263-339)の「アシュトレトが牛の頭を持つ女の姿で崇拝されていた」という記述に影響を受けたかもしれないとある。
7タンムズ植物の死と再生を象徴するフェニキアの神。
8ダゴン古代フェニキアの農業神。半人半漁の海の怪物になっている。ミルトン以前ではデーモンではなかった。2つの世界を自在に行き来する奥義伝授の神、魚人だった。
ヘブライ語で「魚」を意味するdagと「偶像」を意味するaonに由来する。ペリシテ人はダゴンを神として信仰した。
ダゴンはアッシリアの神オアンネスと同一視されている。ミルトンのいう「古くから世轟く令名をもつもの」の一人。
ペリシテ人はサウロの首を切り落とし、ダゴンの神殿に釘付けにした(『歴代志上第十章十節』) 。
9リンモン古代シリア人の風雨の神。
10オシリス古代エジプト人の冥界神。
11イシス古代エジプトの女神。オシリスの妹にして妻。
12ホルス古代エジプトの神。オシリスの息子。
13ベリアル堕天し。堕天した天使の中で最もみだらで不埒。ベリアルほど悪徳のために悪徳を愛する下卑た者はいない。
ミルトンは厳密な聖書の解釈よりもグリモアの伝統における淫蕩(いんとう)と放縦(ほうじゅう)にえいきょうされているらしい。
14ティタン族古代ギリシアの古い神々。
15アザゼル堕天し。もと智天使。万魔殿の帝王旗をかかげた。『レビ記』第一六章のアザゼルや鬼神のイブリスとはなんの関係もないらしい。
16マンモン富が擬人化したさもしい悪魔。本来デーモンでも偶像でもなかった。シリア語で「金」や「富」をあらわす言葉に過ぎない。
マタイ伝第六章二十四節などで「汝ら神とマモンとに兼ね仕うることあたわず」とあるように、キ
リストの言葉によって擬人化されたものと受け取られたため、悪魔としてとりあげられる。
ミルトンいわく「堕天した天使の中でもっとも高潔とはほどとおいもの」である。
大地の中心をうろつかせ、黄金の鉱脈を掘らせて、のちに万魔殿と呼ばれる場所を掘り起こした。
神や人間に戦いを仕掛けるよりも地獄にとどまって富を利用するべきと『失楽園』第2巻で主張したことからか、
唯物論を代表するものとしても用いられている。
17ムルキベルギリシア神話の鍛冶の神ヘパイストス。地獄に万魔殿を築いた。よく万魔殿の建築家と呼ばれるが、実際には地獄の都の建築や塔の建築家だったらしい。
万魔殿の敷地を選んで掘り起こしたのはマモン。古典時代にまで出自はさかのぼり
、ローマ神話において「和らげるもの」を意味する向きルベルは火の神ウルカヌスをあらわす名前の一人。
ウルカヌスがユーピテルによって天から投げ落とされ、九日にわたって落下したことでデーモンの名前としてミルトンは採用したのかもしれないと『悪魔の辞典』にはある。
18アデランメレク古代ファルワイム人の神。もと座天使。
19アスモデウス堕天しアスモデウス。もと座天使。
20アリエル神の獅子という名の堕天使。
天使学では水を支配する七天使の一人。
21アリオク獅子のようなものという名の堕天使。
中世のカバラ主義者によって復讐の悪霊と考えられた。
22ラミエル「雷霆(らいてい)」という名の堕天使。
『シビュラの託宣』では人間の魂を神の審判の場につれだす五天使の一人。
23ニスロク古代アッシリアの神。権天使の首領だった。

ビヒモス

 ビヒモス、すなわち獣。なぜなら、彼は人間の獣性を生み出すからだ。

(『失楽園』)

注釈でミルトンはビヒモスを象と解釈したとあるそうだ。

・アスタロト

「ミルトンの採用した綴りはデーモン学文献におけるさまざまな綴りのなかから選ばれたーたとえばAsteroth、Astarath、Ashteroth等があり、Astorothがもっとも一般的である。単数形がAshtorethで、複数形がAshtarothになる。しかしミルトンは正しく単数形を使用するべきときですら複数形を用いている(『悪魔の辞典』395P)。」

『図解 悪魔学』や「堕天使 悪魔たちのプロフィール」ではAstarothになってますね。悪魔の辞典でもミルトンのデーモンではアシュタロス(Ashtaroth)、他の項目ではアスタロト(Astaroth)になっています。

「これらの一群の者と共にやってきた者に、アシトロテ――フェニキア人の呼び名でいえばアスタルテ、つまりあの三日月型の角を頭に頂いた天の女王がいた。月影さやかな夜ともなれば、彼女の煌く像に向かい、シドンの乙女たちは誓いの祈りを捧げ、歌を捧げたが、同じ歌声はシオンの山でも響いた。そこの背神の丘の上にも、聡明な心の持ち主ではあったが、偶像を拝する美しい女たちに惑わされ、自分自身もおぞましい偶像の前についに帰依した、妻に甘いあの王の手でアシトロテの宮が建てられていたからだ(『失楽園』)。」

参考文献

・『悪魔の辞典』(青土社)

・『図解 悪魔学』(新紀元社)

『キリストの降誕の朝に』:天の女神で月型の飾りの姿をしていたアスタロト

予備知識
「キリスト降誕の朝」とは?意味と定義

・『キリスト降誕の朝』(“On the Morning of Christ’s Nativity”):ジョン・ミルトン著の『1645年詩集』のなかのひとつの詩。

関連する悪魔
アスタロト

「バオルとバーリムは、みずからの小暗い神殿を見捨て、それとともにパレスチナの神も打ち砕かれた。そして月形の飾りのあるアシュタロス、天の女神にして母であるアシュタロスは、いまや蝋燭(ろうそく)にとりまかれて神の座に腰をおろすこともなく、ハモンは角を縮め、テュロスの乙女たちは傷ついたタムズをむなしく嘆く(『キリスト降誕の朝』)。 」

アシュタロスはミルトンのデーモンの一人。アスタロトの元になったフェニキア人が信仰した女神アスタロトをミルトンが悪魔として扱ったもの。

関連する絵

ウィリアム・ブレイク作「キリストの降誕の朝について」 出典

予備知識
参考文献

・「悪魔の辞典」,フレッド・ゲディングズ著,大滝啓裕訳,(青土社)

『地獄の辞典』:地獄の大公爵としてのアスタロト

基本的に『ゲーティア』の説明を参考にしただけみたいですね。

予備知識
「地獄の辞典」とは?意味と定義

・『地獄の辞典』は1826年にフランスの文筆家コラン・ド・プランシーによって描かれた悪魔などのエピソードを集めた辞書形式の書籍。M・L・ブルトンによる挿絵が有名。情報が多いが、中には誤りも多くあるらしい。

関連する悪魔

・ベヒモス

 威張っているが、鈍重かつ愚味な魔神。がっしりと逞しく、美食や大食を専門領分とする。地獄で膳部官と酌人頭を勤めるとする悪魔学者もいる。ボダンの説では、ベヘモスはヘブライ人を迫害したエジプトのファラオにほかならない。ヨブ記には巨大な怪物として描かれ、注釈者たちは鯨であるとか、象であるとか主張するが、それ以外の絶滅種かもしれぬ。

(『地獄の辞典』)

膳部(ぜんぶ):料理

酌人:酒の席で酌をする人

アスタロト

「地獄に権勢を誇る大公爵。きわめて醜い天使の姿で地獄の竜にまたがり、左手にマムシを持つ(『地獄の辞典』)。」

参考文献

・「悪魔の辞典」(青土社)

『邪悪なデーモンの位階』:8位のアスタロト

『ラッド博士の論文集』ではアスタロトが8位の支配者として登場する。悪魔の種類の名前は「クリミナトレス」で、中傷を意味するらしい。すなわち中傷関連の悪魔の支配者ということだろうか。

予備知識
「ラッド博士の論文集」とは?意味と定義

・「ラッド博士の論文集」(The Treaties of Dr.Rudd):魔術・錬金術・薔薇十字文献を集めてひとつにまとめあげた文書(ハーリー手稿6481から6486までの6巻まである)のこと。1699年から1710年にかけてピーター・スマートという人物が作ったとされている。その中のいくつかの論文でラッドという名前が登場する。錬金術研究科アダム・マクリーンは1982年にこれらの手稿を出版し、広く知られることになる。『ラッド博士の論文集』とはマクリーンがつけた手稿にたいする仮の名前らしい。

・MS6482ではラッド博士の天使魔術論が記されている。アダム・マクリーンがこの手稿を編集してのちに出版した。

・MS6483では「悪霊の書もしくはゴエティア」と題して「レメゲトン」の写本が収録されている。1712年から1713年に作られたらしい。72の魔神の印象だけではなく、天使の印象が掲載されている。

関連する悪魔

MS6482の「天使魔術文書」では「邪悪なデーモンの位階」が記されている。

ただし『悪魔の辞典』でフレッド・ゲディングズは「この九項目からなるリストはデーモンの個々の活動を述べているが、位階が特定の責任をもつ等級として、どのような観点からランク付けされているのかはわからない(69P)」と述べている。これはデーモンの位階と天使の位階が対応しているのを見て象徴的な重要性があると考えるのは無分別であるとゲディングズが述べる文脈で例として挙げられている。

悪魔は堕天した天使であり、堕天する前の天使の階級がそのまま悪魔の階級として対応させることはたしかによくある。ミカエリス神父による悪魔の位階では天使時代の位階がそのまま悪魔のランク付けとされている。たとえばベルゼブブはもと熾天使の君主なので、悪魔でも第一階級に属するとある。

『邪悪なデーモンの位階』は天使だった頃の位階に即してランク付けされていないので、必ずしも天使だったころの位階が悪魔の位階になるわけでもないと言いたいのか(?)

位階悪魔の名前意味君主(支配者)
1プセウドテイ偽神ベルゼブブ
2スピリトゥス・インダキオルム嘘の霊ビュートーン
3ウァサ・イニクィタティス不正の器ベリアル
4ウルトレス・スケロルム犯罪の復讐者アスモデウス
5プラエスティギアトレス奇蹟の模倣者サタン
6アエリアエ・ポテスタテス空の軍勢メリジム
7フリアエ復讐の女神アバドン
8クリミナトレス中傷者アスタロト
9テンタトレス・マリゲニー悪の誘惑者・鬼神マモン
参考文献

・『悪魔の辞典』(青土社)

出典

『魔術の歴史』放蕩と挫折の偶像としてのアスタロト

放蕩と挫折の偶像としてアスタロトが表現されている。19世紀の文献なので、中世というより近代だろう。

放蕩(ほうとう):酒色にふけって品行がおさまらないこと。酒や女におぼれること。

挫折(ざせつ):目的をもって続けてきた仕事などが中途でだめになること。くじけ折れること。

予備知識
「魔術の歴史」とは?意味と定義

・『魔術の歴史』(Histoire de la magie):1859年にエリファス・レヴィ(アルフォンス・ルイ・コンスタン)によって書かれたもの。エリファス・レヴィはフランス・パリ出身のロマン派詩人であり、隠秘学思想家。『魔術の歴史』は全6巻からなる秘境哲学全集の中のひとつ。『魔術の歴史』はランボーが夢中になって読んだと言われている。おそらくフランスを代表する詩人であるアルチュール・ランボー(1854-1891)のことだと思われる。

関連する悪魔
アスタロト

「アスタルテ、リリト、ナエマ、アスタロトは放蕩と挫折の偶像である(『魔術の歴史』第三之書第三章悪魔について)。」

参考文献

出典

歴史補足

歴史概略

「地中海世界各地で広く崇められたセム系の豊穣多産の女神」とWIKにある。

アスタルテに関連する地域は主にウガリット、カナン、フェニキアです。他にもエジプトやギリシア・ローマでも取り入れられたり信仰されたりしたらしいです。

カナンとフェニキアは地中海沿岸付近にあったと言われます。ちょうどカナンの上の方にフェニキアがあります。

大雑把に整理すれウガリット神話に登場したとされるアスタルテが、ウガリットより南の地域のフェニキアやカナンの地でも信仰され、その他エジプトやギリシアにも広まっていったということではないでしょうか。

ユダヤ人の祖であるアブラハムは神によってカナンの地(約束の地)を与えられました。その意味で(神によって与えられることを)約束された地というわけですね。しかしアブラハムの孫であるヤコブの時期にカナンは飢饉に襲われ、エジプトに移住することになります。それから時が経ち、エジプトでイスラエル人が迫害されるようになり、それが原因でモーセに導かれエジプトを脱出することになります。

カナンの地に再び戻ったヘブライ人によってイスラエル王国が建設されます。イスラエル王国においてヤハウェは唯一の神です。したがってウガリットやフェニキアで信仰されていたアスタルテは異教の神にあたるのです。また異教の神を信仰することは、神の怒りを買う行為とされ、望ましくないものとされていました。

こうした背景から、やがて中世になってアスタルテはアスタロトと名前を変え、悪魔として扱われるようになっていくわけです。

カナンとフェニキアに関する歴史

セムはノアの三人の息子(セム・ハム・ヤフェト)のうちの1人セムに由来している言葉であり、セム語を話す人々を主にセム族という。セム系の言語を使用する人々はとても多く、フェニキア人の言語ももセム語系に含まれる。セム語派の下位にあたるカナン諸語の代表的な言語としてフェニキア語やヘブライ語がある。

カナンとは神がアブラハムの子孫に与えると約束した土地であるといわれ、『民数記』ではカナン人は地中海沿岸付近に移住していた人々されている。この地中海沿岸付近に住んでいた人々が、フェニキア人である。『申命記』によればカナン人はイスラエル人に追われる7つの民の1つであったとある。

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地中海世界沿岸は主にフェニキア人が生活していた地域であり、カナンは地中海とヨルダン川・死海に挟まれた地域一帯を指す地名です。

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この辺歴史に疎い私には難しいですね。世界の歴史まっぷさんはわかりやすく説明してくれてためになりましたのでぜひ。

フェニキア人はカナン人の一派から発展したのではないかと考えられているそうです。

もともと地中海沿岸にはフェニキア人を含むカナン人が住んでいたところに、ヘブライ人(イスラエル人)がきたんですね。聖書ではノアからアブラハムが75歳(紀元前17世紀頃?)のときにチグリス、ユーフラテス川の北西にあるカナンの地を神から与えられ、イスラエル民族の祖となったらしいです。アブラハムはメソポタミア地方のカルデアのウルに生まれたという説があります。

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カナン人は紀元前30世紀ごろにはすでに集落をカナン地方につくっていました。

ではヘブライ人はどこからカナン地方に進出したのでしょうか。先程の地図でいうと、ヨルダン川の東岸の山岳地帯からカナン地方に進出してきたらしいです。地図で言うところのヨルダン川の右側から、左のカナン地方に進出したということですね。紀元前12世紀ごろのことです。進出というより、侵攻ですね。

このカナン侵攻を描いたのが旧約聖書の『士師記』や『ヨシュア記』だそうです。預言者的・軍事的指導者である士師がイスラエル人全体を導き、カナン侵攻を行ったというわけです。紀元前1080年頃に最後の士師であるサムエルがサウルをイスラエルの王として任命し、サウルの死後ダビデがイスラエル王国をカナン地方に建てます。2代目国王ダビデによってエルサレムが首都とされ、3代目国王ソロモンによってエルサレム宮殿が建築されました。

サウルが王になった背景には、ヘブライ人とペリシテ人の戦いが背景にあります。聖書によればペリシテ人はアブラハムの時代にもともと定住していたらしいです。ペリシテ人やフェニキア人たちの住んでいる地域(カナンの地)にヘブライ人が侵攻すれば、争いになりますよね。ペリシテ人は紀元前13世紀から紀元前12世紀にかけて地中海東部地域に来襲した「海の民」を構成した人々の一部だそうです。

出典

上の地図でいうとカナンの土地の上の方にフェニキア人たちが住み、下の方にイスラエル王国があることがわかります。ソロモン王の死後、イスラエル王国は北と南に分かれ、南の王国はユダ王国となります。首都であったエルサレムはユダ王国の方にあります。北と南に分裂した後は、両者が争い、両者とも衰えていき、やがてアッシリア王国によって北のイスラエル王国は滅亡します。

モーセと約束の地

イスラエル人はカナン(約束の地)を侵攻しました。カナンの地ではユダヤ教の唯一の神であるヤハウェは信仰されておらず、多種多様な神が信仰されていました。

その中のひとつがフェニキアやウガリットで信仰されていた女神アスタルテというわけです。イスラエル人からすれば異教の神ですが、アスタルテは豊穣の神でもあったので食糧難のときなど信仰してしまう人も出てきてしまうわけです。

そもそもヤコブはカナンにもともと住んでいました。歴史に疎い私にとっては混乱する話です。

ヤコブの父はイサクであり、イサクの父は最初の預言者であり、イスラエル人の祖であるアブラハムです。ヤコブの子孫がそれぞれ部族を作り、それらがイスラエル12部族となったといわれています。モーセの系譜にあたるレビもヤコブの子であるラバンの娘レアの子供の一人です。

テラの子アブラムは、文明が発祥したメソポタミア地方カルデアウルにおいて裕福な遊牧民の家に生まれたと学者らによって考えられている。カルデアのウル(w:en:Ur_Kaśdim)はメソポタミア北部と南部の説があり、どちらなのかは確定していない。

テラは、その息子アブラムと、孫でアブラムの甥に当たるロト、およびアブラムの妻でアブラムの異母妹に当たるサライ(のちのサラ)と共にカナンの地(ヨルダン川西岸。現在のパレスティナ)に移り住むことを目指し、ウルから出発した。しかし、途中のハランにテラ一行は住み着いた。

アブラムは父テラの死後יהוה(ヤフア)から啓示を受け、それに従って、妻サライ、甥ロト、およびハランで加えた人々とともに約束の地カナン(パレスチナ)へ旅立った。アブラム75歳の時のことである。以下は、その時の神の啓示である。

「あなたは、
あなたの生まれ故郷、あなたの父の家を出て、
わたしが示す地へ行きなさい。
そうすれば、わたしはあなたを大いなる国民とし、
あなたを祝福し、
あなたの名を大いなるものとしよう。
あなたの名は祝福となる。
あなたを祝福する者をわたしは祝福し、
あなたをのろう者をわたしはのろう。
地上の全ての民族は、あなたによって祝福される。

— 旧約聖書『創世記』12:1-3、日本聖書刊行会の新改訳聖書より

アブラム一行がカナンの地に入ると、シェケムエルサレムの北方約50km)で神がアブラムの前に現れ、

あなたの子孫に、わたしはこの地を与える。

— 『創世記』12:7、日本聖書刊行会の新改訳聖書より

と預言された。アブラムは、自分のために現れてくださったיהוה(ヤフア)のため最初の祭壇をシェケムに築いた。その後、アブラム一行は更に南下してベテルとアイの間(エルサレムの北方約20km)に移り住んだ。そしてここにもיהוה(ヤフア)のための祭壇を築き、エルシャダイという名によって祈った。

出典

よくよく調べると、アブラハムが神(ヤフア、ヤハウェ)から約束の地カナンに向かうように啓示を受けていたんですね。つまり神によってカナンの土地がイスラエル人に与えられたということになります。

その後カナン地方で飢饉が起きたため、アブラハムたちはエジプトへ避難したというわけらしいです。この飢饉の時期が、アブラハムの孫にあたるヤコブの時期というわけですね。エジプトに移り住み、ファラオからゴシュエンの地に住むことを許され、成人男性だけで60万人にも達したらしいです。

増えすぎたイスラエル人がエジプトで迫害され、モーセに導かれ約束の地にまた戻るという文脈なんですね。モーセのエジプト脱出の時期はヤコブがカナンを離れてから430年近く経っています。自分たちの先祖が住んでいた土地に戻ったはいいが、別の民族が住み着いているので侵攻というかたちになるわけですね。たしかに出ていったくせに戻ってきやがった、となりそうです。ペリシテ人などと実際に争うことになります。

予備知識
「モーセ」とは?意味と定義

・モーセ:旧約聖書の『出エジプト記』などに現れる、紀元前16世紀または紀元前13世紀ころに活躍したと推測されている、古代イスラエルの民族指導者であり、יהוה(ヤハウェ/ヤフア)を神とする。正教会ではモイセイと呼ばれ聖人とされる。(WIKIより)

・モーセはイスラエル人

『旧約聖書』の『出エジプト記』によれば、モーセはイスラエル人のレビ族の父アムラムと母ヨケベドの間に生まれたとある。兄アロンと妹ミリアムがいる。モーセの時代はエジプトでイスラエル人(ヘブライ人)が迫害されており、ファラオがヘブライ人の新生児を殺害することを命じていたので、新生児だったモーセは殺されかけている。ナイル川に流されたモーセはファラオの娘に拾われ大切に育てられたらしい。

・モーセは預言者

モーセは無事大人になったが、ヘブライ人がエジプト人に虐待されれているところを助けようとしてエジプト人を殺してしまう。そのせいでファラオ(エジプトの王)から命を狙われた耐え、ミディアンの地(アラビア半島)に逃げる。そこで羊飼いとして隠れて暮らしていたが、ある日燃える柴の中から神(ヤハウェ)に語りかけられて、イスラエル人を約束の地(乳と蜜の流れる地)に導くように指名を受ける。

・エジプト脱出の時代背景

1:イスラエル人がエジプトに移住する

ヤコブの子ヨセフの時代にイスラエル人はエジプトに移住し、エジプト王の手厚い待遇をうけて栄えた。イスラエル人を厚遇した王朝は紀元前1730年から紀元前1580年のヒクソスだったといわれている。

ヤコブの父はイサクであり、イサクの父はアブラハムである。ヤコブのまたの名をイスラエルという。アブラハムは最初の預言者であり、ユダヤ教におけるユダヤ人の祖であり、イスラム教ではすべてのアラブ人の系譜上の祖とされる。アブラハムは『創世記』に登場する。

2:イスラエル人がエジプトで迫害を受ける

紀元前1570年から紀元前1293年頃のエジプトの第18王朝の頃にイスラエル人が迫害を受ける。

3:モーセがイスラエル人を引き連れてエジプトを脱出する

紀元前13世紀の第19王朝のラムセス2世の時代に、モーセはイスラエル人を引き連れてエジプトを脱出する。どのくらいの人数だったかは諸説あるが、聖書によれば60万人(『出エジプト記』)だといわれている。

モーセは神の使命を受け、イスラエル人を約束の地に導くためにミディアンからエジプトに戻る。エジプトのファラオに会い、虐げられてきたヘブライ人がエジプトから退去する許可を求めるが、拒否される。

モーセは神から自分が預言者だと人に信じてもらえなかったときのために、3つのしるしを与えられている。「杖が蛇になる」、「ナイル川の水が血に変わる」、「手が癩病(ハンセン病)で雪のように白くなる」の3つである。杖を蛇にしただけではファラオに信じてもらえなかったが、ナイル川を血に変え、さらに10の災いをエジプトに起こすことで最後にはファラオはヘブライ人のエジプト脱出を認める。

4:約束の地(カナン)に侵攻する

紀元前12世紀頃からイスラエル人たちはヨルダン川東岸の山岳地帯からカナン地方に侵攻する。敵対的侵攻なのか平和的定住なのかは諸説あるらしい。

『申命記』によればモーセは神に逆らったことがあるので約束の地に入ることを許されなかったという。ヨルダン川の手前でピスガの頂ネボに登り、約束の地を目にしながら120歳で死んだという。モーセの死後は、モーセの従者であるヌンのこのヨシュアが後継者となり、イスラエル人を導いたという。

ウガリットに関する歴史

出典

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紀元前10−8世紀の図としてはこれがわかりやすいですね。ちょうどフェニキアの上の方にウガリットがあります。ウガリットは紀元前3000年後半から西セム人の都市国家として反映したらしいです。紀元前16から紀元前13世紀が最盛期で、エジプトやキプロスとも外国関係にあったそうです。ウガリットの存在が知られたのはなんと1928年というかなり最近の話ですね。たしかに位置的には地中海沿岸にあります。

またウガリット神話はカナン神話の原型であり、ユダヤ教の聖書に影響を与えたと言われています。

参考文献リスト

1:知っておきたい 天使・聖獣と悪魔・魔獣

2:悪魔の事典

3:図解 悪魔学 (F-Files No.027)

4:堕天使―悪魔たちのプロフィール (Truth In Fantasy)

5:悪魔事典 (Truth In Fantasy事典シリーズ)

出典

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その他各WIKI

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