【第十二回基礎色彩学(前編)】 「色の言語化」はなぜ必要なのか

色彩学基礎(動画シリーズ)

はじめに

動画での説明

よろしければサイト維持のためにチャンネル登録をよろしくお願いしますm(_ _)mモチベになっていますm(_ _)m

絵を描く方法の全体の体系

絵の基礎は「(ドローイング)」、「光と陰影(ライティング)」、「色彩(カラーリング)」の3つの領域にあると仮定する。そしてこのシリーズは「色彩」の領域に属する。※体系に関する詳細は第一回を参照。

【第一回色彩学】色彩学とはなにか、解説

POINT

色彩学(英:Color Science):一般に、色の物理的性質・心理的影響・知覚・応用を体系的に研究する学問分野のこと。

※本記事シリーズでは、色を理解し、視覚的・心理的・文化的効果を意図的に操作できる能力を身につけることを目標とする。

このシリーズは「カラーアンドライト」を理解するための知識の獲得を目指している。

※光学や生理学だけではなく、塗料や物体の性質といった化学の知識、さらに心理学の知識もその射程となる。

今回学ぶ範囲はこのような図のイメージとなる。

記事の分割について

記事全体の見取り図

【1】絵を描く際に、色を言語化(定量化)できると表現の幅が広がる。

例:「赤っぽい色がいい」といった曖昧な指定ではなく、RGB(195,19,27)やHLS(357,42%,82%)、マンセル値(5R 4/12)で表現できるようになる。彩度を10上げる、明度を10上げるといったスケール感覚を身につけることができる。

【2】言語化するためにはシステムを理解する必要がある。

ペイントソフトで「ある色をRGBやマンセル値に変換できること(スポイトなどで吸って表示させる)」は言語化しているといえる。しかし、明度や彩度がどういうものか、体系ごとにどのような違いがあるかをわかっていないと使いこなせない。

したがって、「表色系」を理解する必要がある。

POINT

表色系##(英:Color Order System)##:色を誰でも同じように識別し、伝え、扱えるように、一定のルールで体系的に整理した仕組みのこと。混色系と顕色系に大きく分かれる。

POINT

混色系##(英:color mixing system)##:「基準となる色光をどんな割合で混ぜたら、その色を再現できるか」という混ぜる量の数値で表す表色系のこと。

代表的な表色系:CIE-XYZ表色系

POINT

顕色系##(英:color appearance system)##:色を人間が知覚する色の属性によって分類し、体系的に配置する表色系のこと。

代表的な表色系:マンセル表色系、PCCS表色系

※デジタルペイントソフトでよく見るRGBやHSV、HLSは「機器に依存することなく色を定義する」という目的で形成された表色系ではない。しかし広義には表色系(色の言語化機能)ともいえる。狭義には「色空間」と表現されることが多い。

【3】デジタルで絵を完結させる場合とアナログで完結させる場合では表色系の必要性が異なる。

【4】ディスプレイによって「同じ色情報(機器依存色であるRGB)」でも見え方が変わるケース。

どのような性能の機器で表示させたいのか、印刷を前提としているのかを考慮したうえで絵を描く必要がある(カラープロファイルで表示を近似する等)。

 「色の言語化」はなぜ必要なのか

コミュニケーションのために「色の言語化」が必要

POINT

表色系##(英:Color Order System)##:色を誰でも同じように識別し、伝え、扱えるように、一定のルールで体系的に整理した仕組みのこと。

表色系は色の言語化(定量化)にとって重要である。いきなり表色系の説明に入る前に、まず前提を整理する。

たとえば上の画像のりんごを見て、第三者に何色か伝える場合になんと表現するだろうか。

多くの人は「赤色」と言葉で表現するはずである。しかし「赤色」と言われただけでは、この画像の色を表現することはできない。

「明るい赤色」と言われても同じである。どれくらい明るいのか、基準がわからず伝わりにくい。

「カーマインライト」といったような具体的な名前を使えば伝わりやすいかもしれない。

あるいは「赤いルビー」、「熟したさくらんぼ」、「赤いバラ」、「赤ワイン」、「鳥居の赤」といった別の物の名前で表現する方法もある。実物を共有できない場合、さまざまな方法で言語化を試みることができる。

そもそも、ある色を見て「カーマインライト」と表現できる人は少ない。また、カーマインライトにも幅があり、ぴったりと色を伝えることはできない。「色の名前」にせよ「似ている物」にせよほとんど同じ色を伝えることは難しい。

しかし、日常のコミュニケーション(意思伝達)において、あまりにも正確な色の言語化は必要ない。「赤色」でなんとかなることが多い。たとえば「赤色のそれとって」でコミュニケーションは円滑に進む。しかし仕事や美術の領域では違う。

絵を描くために「色の言語化」はいるか

イラストレーター、アニメーター、デザイナー、編集者など「色」を専門的に扱う人たちは「正確で客観的な色の表現」が必要な場面がある。

たとえばイラストレーターがスタッフに、キャラクターの髪色を「赤っぽくして」と伝達して、思った通りの色が出来上がる保証はない。かといって毎回現物を出す作業は手間になる。

編集における本の指定、企業のロゴの指定、Webサイトの指定など、さまざまな場面で「色のコミュニケーションの正確性」が問題となる。

もし、色を客観的に言語化、定量化できる言語やシステムがあれば、よりコミュニケーションは容易になる。そしてそのシステムこそが表色系である。たとえば「このキャラクターの髪の色はマンセル値7.5R4/16、webではRGB(195,0,23)といったように指定することができる。

絵を描く際に色を言語化できることで、「色の共有」、「色の分析」、「色の記録」の3つの機能があると考えることができる。

【1】色の共有:表色系を使って、色を他の人と客観的に伝え、同じ色を共有すること。

例:「赤色」とおおまかに指定するのではなく、マンセル値やRGB値で色を指定し、イラストレーターや印刷会社が同じ色を再現できるようになる。

【2】色の分析:特定の色を言語化するだけではなく、複数の色の違いや共通点、変化や配色の関係を客観的に調べること。

例:良いと思ったイラストや自然を観察し、「影は明度だけでなく彩度も下げている」、「背景は低彩度で人物だけ高彩度にして目立たせている」といった分析を行う。

良い/悪いと感じる理由(コツ)を言語化することができる。

【3】色の記録:表色系を使って、色を後から再利用できるように保存すること。

例:キャラクターの配色をマンセル値やRGB値で記録し、別の日に描くときも同じ色を再現する。

特定の色の記録だけではなく、ある色と他の色との関係、光源との関係、心理的な要素なども含めて記録しておくと、後で参照しやすい。

スポイトで色を吸い取ればいいのではないか

 

インターネットに存在するイラストや写真の色をスポイトすれば、RGBの情報が手に入る。このRGBの情報はCMYKやCIE-xyz、マンセルなどに近似的に変換することができる(カラーピッカーを使えば多くの情報が同時に表示される)。

現実の風景も写真などで保存し、スポイトで色をとれば獲得できるかもしれない。

POINT

スポイト##(英:Eyedropper Tool)##:キャンバス上や画像内のある場所の色を読み取り、現在の描画色として取得するツールのこと。

もちろん、複雑なイラストや風景はあまりにも多くの色が混在しており、スポイトでは色を一挙に抽出し切ることは難しい(できたとしても細かすぎる)。また、背景の色が違えば主題の色の見え方が変わるという心理的な問題も存在する。とはいえ、スポイトでも「言語化した」と広義にはいえる。

そもそも「表色系」を学ぶことは、「単に色を数値として表現できること」だけを意味しない。あくまでも出発点である。

表色系とは「体系(システム)」であり、色どうしの関係を扱うツールなのである。たとえばマンセル表色系によって、ある色の「補色」を理解することができたり、現実に表現できる色の限界を理解することができるといったプラスアルファが存在している。

スポイトは「色を取得する道具」であり、表色系は「色を理解し、伝え、見え方を予測するための共通言語」である。スポイトだけでは「英語はよくわからないけどAIが勝手に日本語を英語に変換してくれる」というイメージが近い。

ある絵を見たときに、あの色はマンセルでいえば〇〇だな、彩度は〇〇くらいだな、明度は〇〇くらいだな、相性がいい色は〇〇だな、と即座に理解できるような色に対する解像度、センスを養うために表色系(色彩言語)を学ぶのである。

また、スポイトだけでは「既存の色を利用すること」に限られてしまう。自分で色を設計しよう、色の変化を予測しようという場合に役立ちにくい。

表色系を学んでおくことで、自分が必要としている色の言語化が可能になり、選択肢や課題もより明確になっていくのである。

参考文献

基礎本

ベティ・エドワーズ 「色彩・配色・混色: 美しい配色と混色のテクニックをマスターする」

ベティ・エドワーズ 「色彩・配色・混色: 美しい配色と混色のテクニックをマスターする」

・初心者にもわかりやすい平明な言葉で説明されており、ドローイングとの関わりを特に重視している書籍。初心者ならこれを買っておけば間違いない。

千々岩 英彰「色彩学概説」

千々岩 英彰「色彩学概説」

・初心者にはわかりにくい難しい言葉で説明されているが、科学的な説明であり、体系的で網羅的な説明がされている良書。ドローイングのためという限定的な目的ではないが、色彩学を単なるハウツーではなく学問として学びたい人には必須の本であると言える。

上級者向け

ジェームス・ガーニー「カラー&ライト ~リアリズムのための色彩と光の描き方~」

ジェームス・ガーニー「カラー&ライト ~リアリズムのための色彩と光の描き方~」

・色彩学の基礎を一通り理解したうえで、美しい絵や個性的な絵、限定的な絵をよりもっと上達させたい人に向いている。色の扱いだけではなく、光の扱いにも言及されている有名な書籍である。この記事シリーズでは、この書籍の理解を中間的な目標として目指している。

ジョセフ・アルバース「配色の設計 ―色の知覚と相互作用 Interaction of Color」

ジョセフ・アルバース「配色の設計 ―色の知覚と相互作用 Interaction of Color」

理論の説明ではなく、実践に特化した本。まずは塗ったり、見たり、触ったりして覚えるという手法をとっている。私の記事シリーズとは方向性が違うが、しかし絵を描く人にとっては良書だといえる。

「色彩用語事典」

「色彩用語事典」

・あったら便利だろう。とはいえ、現代ではネットで探したほうが早いかもしれない。

使用している汎用書籍

「対策色彩検定カラ-コ-ディネ-タ-検定 (2級・3級)」,新紀元社

「対策色彩検定カラ-コ-ディネ-タ-検定 (2級・3級)」,新紀元社

小林嗣幸「理・美容の造形と色彩」

小林嗣幸「理・美容の造形と色彩」

コメント

タイトルとURLをコピーしました