
ベリアルとは
意味
語源
邪悪なもの(wicked)や無価値なもの(worthless)の意味を持つヘブライ語に由来しているらしいです。beliが「ない」という意味で、alが「価値」という意味です。
英語版のWIKIではyokeless、never to riseなんて訳す学者もいるらしいです。neve to riseですから上がらない、浮上しない、飛び立たない、起こらないとかですかね。いずれにせよネガティブな言葉です。
ベリアルに関するエピソード
1:「死海文書」の中でのベリアル像:最大の悪魔、サタンと融合?
ベリアルは死海文書の中の、「光の息子たちと闇の息子たちとの戦い」に登場します。
死海文書以外ではそもそも、唯一神ヤハウェという存在が絶対的なものです。つまり世界に対等に善と悪が存在し、対立しているという概念が薄いのです。
死海文書を書いたエッセネ派はイランのゾロアスター教の影響を受け、一元論ではなく二元論的な思想の書物になっています。
死海文書では神は光の道と悪の道を創造したということになっています。「光の息子」とは光の天使のことで、「闇の息子」とは闇の天使のことです。息子を創造した父親、あるいは母親にあたるのが神ということです。すべての天使・人間は光の道か闇の道かを選び、世界が終わるまで闘争を繰り返すそうです。
光の道の最大の天使がミカエルで、闇の道の最大の天使がベリアルです。40年間戦いを続け、かつ両陣営とも三度ずつ優勢になるという僅差の戦いだったようです。最後には闇の天使が負けてしまいます。
ミカエルと対等に戦えるほど強い悪魔としてベリアルが描かれているので、のちにサタンと同一視されるのも不自然ではないですね。サタンはさまざまな悪魔の融合として描かれることがあるので、強大な悪魔はサタンと同一視されがちです。ベルゼブブやアザゼルもサタンと同一視されています。
だが、破壊のために神は敵意の天使ベリアルを創りたもうた。彼の支配地は闇の中にあり、彼の目的は邪悪と罪を振りまくことである。彼に関わる精霊たちは薬の一種である Sweed の天使たちに他ならない。(「戦いの書」)
光の子らは三度、勇気を振るって悪を討ち、ベリアルの軍勢は三度腰に帯びして光に割り当てられた者を後退させる(「戦いの書」)
ベリアルは「戦いの書」によれば角のある天使として描かれています。七度目の光の天使たちの戦いに破れ、角は消滅してしまったそうです。
2:『コリント人への第二の手紙』:キリストと対極に扱われるベリアル
キリストとベリアルとなんの調和があるか。信仰と不信仰となんの関係があるか。
(『コリント人への第二の手紙』6章15節)
キリストが信仰の象徴だとしたら、ベリアルは不信仰の象徴ですよね。キリストの対極として扱われると、大物感が出ますよね。
ベルゼブブもキリストと争って結局負けていましたが、大物の悪魔はキリストと争っていますね。
3:「ベニヤミンの遺訓」:マナセ王に取り憑いたベリアル
だから子どもたちよ、お前たちに言おう。
ベリアルは自分に従う者に剣を与えるのだから、彼の悪を逃れよ。
そしてその剣は七つの悪の母である。
まず心はベリアルをとおして理解する。
だから第一にねたみ、第二に破壊、第三に患難、第四に捕囚、
第五に欠乏、第六に混乱、第七に荒廃がある。
(旧約聖書偽典『ベニヤミンの遺訓』)
『ベニヤミンの遺訓』ではベリアルがユダ王国14代目国王、マナセ王に取り憑いたとあります。
ベルゼブブの項目でもユダ王国がでてきましたね。ユダ王国第六代の王アハズヤが、異教の神バアルに病を治してもらおうとするシーンで、預言者のエリヤに「そんな異教の神に祈るやつは死ぬ」みたいなこと言ってましたね。同じようにユダ王国第十四代国王であるマナセもバアルを信仰していたそうです。
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そんなマナセ国王ですが、なんとベリアルに取り憑かれていたらしいです。「なんでも妖怪のせい」を思い出すのは私だけでしょうか。
ベリアルはマナセ国王にとりつき、妖術や魔法といった悪行をおこなわせ、神の信徒を迫害し、その信仰を破棄させたらしいです。『歴代誌』によればアッシリアに囚われ、解放された後は改心したらしいです。
4:「ベリアルの書」:キリストvsベリアルの裁判。ベリアルは法律の権威?
「この不愉快なるベリアルの書」(ベリアルの書)は11382年にヤコブス・デ・テラモによってかかれたものです。
ベリアルはキリストと裁判をしたらしいです。裁判官は第三代イスラエル国王ソロモンです。14世紀の出来事ですが、神が悪魔と取引をしたことがあるソロモン王を適任としたらしいですね。
ベリアルがキリストを告訴した理由は「彼は不法にも地獄の権利に干渉し、地獄、海、大地、大地に住むすべてのものの支配権を強奪した」からだといいます。時代背景としては天界は神の支配領域、地上や地獄は悪魔の支配領域と考えられていたそうです。それなのにキリストは人々に神への信仰を目覚めさせたというわけです。
たしかに自分たちが支配している場所で、他の支配者を信仰させられたら困りますよね。
もっともキリストは地獄の罪人たちをすべて開放してしまうといったこともしています。これに一番怒ったのは実はサタンです。地獄の罪人たちの解放といえば、ベルゼブブとキリストの戦いが有名ですが、「ベルアルの書」ではサタンが法律に詳しいベリアルを代理人に立てたということになっているようです。
キリストの弁護人としてはあの有名なモーセがついたそうです。
ベリアルは裁判官に媚びを売るように踊ったり、色々画策したようです。
エジプト王の代理ヨセフ、ローマ皇帝オクタビアヌス、預言者エレミヤ、預言者イザヤ、アリストテレスの5人が委員となって問題を討議したそうです。
結局キリストの無罪が証明されてしまいましたが、代わりに「最後の審判の日に地獄へ落とされる不正なものすべてに対する支配権」を得ることを再確認されたらしいです。
地獄の罪人を勝手に開放しちゃいけませんよ、ということになったんですね。
5:『バルトロマイの福音書』:ベリアルは神の使者だった
『バルトロマイの福音書』(新約聖書外典)でベリアルが登場しています。バルトロマイに向かってベリアルが自分のことを話すシーンです。それによればかつては神の使者という名前のサタナエルと呼ばれていましたが、神の似像(じぞう,姿かたちを似せること)を拒み、地獄(タルタロス)を管理する天使という意味でサタナスと呼ばれるようになったそうです。
さらにベリアルは神によって創られた第一の天使であることも語っています。ミカエルやガブリエルより前に創られた天使ということです。これを元ネタにして「ソロモンの鍵」では序列68位のベリアルが、「天使たちと戦って自分が一番最初に天から追放された」といっているんでしょうかね。最初に創られ、最初に追放された天使ということになります。もっともベリアルは弁が立つ悪魔ともいわれるので、真実はさだかではありません
6:ミルトンの『失楽園』:ベリアルは姿は立派だが品性は下劣
優雅で洗練された振る舞いの持ち主ベリアルが立ち上がった。天から生まれた者で、彼以上に端麗な天使は他にいなかった。生まれつき威厳にみち、高蔓で、勇敢な行動力を誇る者のように見えていたが、それはすべて偽りの虚飾にすぎなかった。
(『失楽園』)
※高邁(こうまい)、けだかく優れていること
『失楽園』では「ベリアルほど下品で、悪徳を愛する不埒者はいない」とされている。上品そうに見えるが、実は下品であるということですね。弁舌がうまく、どんな低劣な内容でも巧みな話術で立派な論理にみえてくるようです。キリストと裁判をするときにサタンから任命されたのもうなづけますね。
「死海文書」や「コリント人への手紙」では、サタンクラスの大物扱いを受けていましたが、どことなく小物のような感じがしてきましたね。
戦うことも好きではなく、モロクが天へ攻めこもうといったとき、反対したそうです。またサタンの発明した大砲をほめちぎるなど、ごますりをする悪魔でもあったようですね。
7:『レメゲトン』(ソロモンの小さな鍵の「ゴエティア」):ソロモン72人の悪魔の一人としてのベリアル
ベリアルはソロモンと対決して負け、瓶か壺に閉じ込められてしまったみたいですね。
ゴエティアによればベリアルは序列68位で称号は王、80軍団の長のようです。ルシファーの次に想像された悪魔であり、美しい二人の天使の姿で炎の戦車に乗って登場するらしいです。穏やかな声で天使と戦って自分が一番最初に点から追放されたと言ったらしい。召喚したら聖職や議員の地位をもたらしてくれ、友からも敵からも好かれるようにしてくれ、使い魔ももたらしてくれるそうです。こうした記述は「偽エノク書」とも重なりますね。
ソロモン王72人の悪魔の序列ってよくわからないですよね。ベリアルは68位ですが、称号は一番上の王です。おそらく68位といより、単なる記載の順番だと思います。ベリアルの称号は王なので、72人の悪魔の中でも地位は上の方なはずです。
WIKIによれば72という数字は十二宮の1つの宮をさらに6区画によって得られた数字で、象徴的な全方角の支配者を定めるためのものらしいです。つまり序列というより、方角の数字を示しているのではないでしょうか。
ソロモン72人の悪魔の中で称号が王なのは1のバエル、9のバイモン、13のベレト、20のプルソン、32のアスモデウス、61のバラム、68のベリアルだけです。
これらは72人の強大な王侯たちであり、ソロモン王はかれらに、ベリアル、ビレト、アスモダイ、ガープが首領であるところの軍勢とともに一つの真鍮器に入るよう命じたのである。これはかれらの高慢のゆえであろうと思われる。というのもソロモンはかれらを拘束した理由を明かさなかったからである。かくてソロモンはかれらを縛して容器に密閉し、神聖な力によってバビロンの深い湖か穴に逐いやったのであるが、バビロニアのひとびとがこれを見て訝しみ、大きな財宝が入っているやもしれぬ、と容器をこじ開けようとして湖に入り込んだ。しかし彼らが器を開封した途端、霊の頭目たちは自分たちに服属する軍団とともに挙って奔出したのであった。そしてベリアルの他はみな元の位置に復帰してしまった。一方、ベリアルは或る偶像に入り込み、バビロニアびとがしたように生贄を捧げてその偶像を神として祀るひとびとに応答するようになったのである(『ゴエティア』)
上にあるように、ベリアルはやはり別格みたいですね。ソロモン王によって真鍮製の壺か瓶に入れられてしまいましたが、バビロニア人が宝が入っていると勘違いをして空けてしまったようです。そのとき多くの悪魔が逃げましたが、ベリアルは偶像に入り込み、神として祀られたそうです。興味深いエピソードですね。
この偶像として神になったというのは、おそらくブランシーの『地獄の辞典』の、古代フェニキアのし丼で崇拝された邪神というエピソードと重なるのではないでしょうか。
8:ウィリアム・ブレイク『ミルトン』によるベリアルの扱い
ウィリアム・ブレイクの『ミルトン』の中では、ベリアルは神のままで、ソドムとゴモラの恐怖にむすびつき、「買収と密かな暗殺にかかわる模糊としたデーモン」として描かれているらしい。
ソドムとゴモラといえば、ソースは不確かですがソドムとの町を混乱に陥れた悪魔がベリアルだったという説があるみたいですね。真野陸也さんの「堕天使」にそのような記述がありますが、なにを出典としているか記載がありません。
9:「士師記」によるベルアル:低俗な霊
22 彼らが楽しく過ごしていた時、町の人々の悪い者どもがその家を取り囲み、戸を打ちたたいて、家のあるじである老人に言った、「あなたの家にきた人を出しなさい。われわれはその者を知るであろう」(『士師記』第十九章22節)
22 While they were enjoying themselves, some of the wicked men of the city surrounded the house. Pounding on the door, they shouted to the old man who owned the house, “Bring out the man who came to your house so we can have sex with him.”
これがどうベリアルについて言及されているかよくわかりません。フレッド・ゲディングズの「悪魔の辞典では」この節を受けてベリアルを低俗な霊としていますが、どうなんでしょうか。
おそらく英訳ではwicked menとされているので、ベリアルの名前にはヘブライ語で邪悪、英語でいうとwickedという名前になるのでそれでしょうかね。文脈的には町の悪い人々ですが、悪魔として解釈することもできるかもしれません。
シーン的には、よそ者(男とその愛人)を泊めてあげた家のあるじに、町の悪い奴らが「よそものをさしだせ」といい、家の主はかわりに自分の娘とよそ者の愛人を差し出すから、彼だけはやめてくれと言っている感じです。よそ者の男は自分の愛人をさしだし、彼らはその女を一晩中はずかしめたそうです。そして女は死んでいました。男は女を乗せて家に帰りましたが、からだを十二切れに断ち切り、イスラエル全領土にあまねく送ったそうです。
どうやらよそ者が滞在していた土地がギヘアという町で、男は自分の愛人(めかけ)がギヘアの人々にはずかしめられ殺されたことに怒りを感じ、めかけを切り刻み、いま我々(イスラエル人)がギヘア(ベニヤミン人)にすべきことはこれだといったらしいです。20章ではイスラエル人がベニヤミン人の町を攻めようとするシーンがあります。そしてベニヤミン族は滅亡の危機に陥るという話です。
初代イスラエル国王もベニヤミン人です。やがて第三代イスラエル国王のソロモンによってベニヤミン族は行政区の一つに入れられ、後にユダ族とベニヤミン族は統合されていったそうです。
ベリアルに関するイラスト
ベリアルは角が生えた天使として『死海文書』では描写されているので、やはり角が生えたイラストがメインになってくるのではないでしょうか。
有名なゲームであるドラゴンクエストでも角があるモンスター、ベリアルとして登場しています。元ネタはもちろん聖書に出てくるベリアルですね。
グランブルーファンタジー、いわゆるグラブルではイケメンの悪魔として描かれていますね。羽は6枚です。角はないみたいですね。
海外のイラストではかっこいいベリアルが描かれています。やはり死海文書通り、角がありますね。闇の王の雰囲気があります。小物っぽい感じはしませんね。
このマスクもベリアルのイメージに近いですね。
ちなみにこれは『ゴエティア』に記されているベリアルのシジルです。シジルとは魔術で使われる図形このことです。
参考文献
参考書籍
1:「知っておきたい天使・聖獣と悪魔・魔獣」,荒木正純,(西東社)
2:「悪魔の辞典」、フレッド・ゲティングズ、(青土社)
3:「図解 悪魔学」、草野巧、(新紀元社)
4:「堕天使 悪魔たちのプロフィール」、真野陸也、新紀元社
5:「悪魔辞典」、山北篤、新紀元社
6:各WIKI
・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%82%A8%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2
・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AB#cite_note-DoA-1
引用画像
1:https://medievalengravings.tumblr.com/
2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%BB%E6%B5%B7%E6%96%87%E6%9B%B8
3:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%AB
4:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%9E%E3%82%A4
5:https://artsycraftsy.com/dore_prints.html
6:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%89%E3%83%A0%E3%81%A8%E3%82%B4%E3%83%A2%E3%83%A9
7:https://dragonquest.fandom.com/ja/wiki/%E3%83%99%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AB
8:https://www.artstation.com/artwork/g9v8e
9:https://www.compositeeffects.com/product/belial-the-demon/
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