目次
- アスモデウスとは
- アスモデウスに関するエピソード
- ゾロアスター教との関連性
- 旧約聖書外典『トビト書』:娘に取り憑いたアスモデウス
- 「ソロモン王の遺言」:人間の娘と天使の間に生まれたアスモデウス
- ルサージュ「あしなえのデヴィル」(1707年):アスモデウスは飛行する
- コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』:地獄の王としてのアスモデウス
- 民間伝承:アスモデウスは知識を授け、財宝を与える
- 17世紀に起こったルーダンの悪魔憑き事件:アスモデウスの契約書
- 『失楽園』:反逆天使としてのアスモデウス
- バレット『メイガス』(1801年):犯罪の復讐者の王としてのアスモデウス
- ピンスフェルト『魔女と悪人の告白について』(1589年):七つの大罪の一人としてのアスモデウス
- 英語版WIKIで説明されているアスモデウス
- アスモデウスのイラスト
- 参考文献
アスモデウスとは
意味
外見、容姿
牡牛(おうし,雄の牛)、人、牡山羊(おやぎ)の三つの顔と蛇の尾がある姿で、地獄の竜にまたがり、口から火を吐きながら旗付きの槍を持って現れるといわれている。美徳の指輪をもたらし、算術、天文学、幾何学などを完璧に教えてくれ、人を見えなく透明にする技ももっている(「ゴエティア」より)。『失楽園』
「レメゲトン」とは?意味と定義
『レメゲトン』(Lemegeton Clacicula Salomonis):さまざまなグリモアを集めたもので、『小さな鍵』や『ソロモンの小さな鍵』と呼ばれる。ソロモンを著者とするとされているが、フレッド・ゲディングズの「悪魔の辞典」によればそれは見せかけに過ぎないという。しかし他のグリモアよりは高い水準にあるという。第一部は「ゴエティア」と題され、ソロモンの霊72人が列挙され、力や姿が紹介されいてる。第二部は四方のデーモンを扱う「テウギア・ゴエティカ」、第三部は天使を扱う「パウロの術」、第四部は「アルマデル」。グリモアとは主に15世紀から18世紀にかけて現在の形として生み出された、魔術に関わるさまざまな文書をあらわす名称。悪魔や天使を召喚する規則を定めている事が多い。ソロモン王が72人の悪魔と壺(もしくは瓶)に閉じ込め、海に沈めたが、後になってバビロニア人が壺を空けてしまい、悪魔たちは解放される。解放された悪魔たちを召喚する方法がグリモアには記されている。
アスモデウスに関するエピソード
ゾロアスター教との関連性
キリスト教で悪魔として扱われるアスモデウスのルーツはゾロアスター教のアエーシュマらしいです。アエーシュマの呼び名にはアエーシュマ・デーヴァ(怒れる悪魔)もしくはアエーシュマ・ダエーワがギリシア語やヘブライ語に変換され、アスモダイオス、アシュメダイ、アスモデウス等になった説があります。
アエーシュマは憤怒や肉欲を意味する悪魔なので、情欲の悪魔であるアスモデウスとは近しいものがあります。
ユダヤ・キリスト教はゾロアスター教に強い影響を受けています。神と悪魔の対立や、終末論、救世主など共通する部分がたくさんあります。
「ゾロアスター教」とは?意味と定義
・ゾロアスター教(Zoroastrianism):ゾロアスター教とは現在のイラン北東部からアフガニスタンにかけての地域で、紀元前数百年前に形成された、「善悪二元論」を基本とする宗教。創始者はゾロアスター。寺院では「聖なる火」が絶えず燃やされていることから、「拝火教(はいひきょう)」ともいわれる。聖典は「アヴェスター」。最高神はアフラ・マズダーで、悪神アーリマンと対立している。善神か悪神のどちらに所属するかは人間の自由意志に任されているが、各自がした行為は最後に報いを受ける(終末論)。また、最後には善神側が勝つことが確定されている。古代ペルシアでは広く信仰され、3世紀にはササン朝ペルシアで国教となったが、七世紀にササン朝が滅ぼされ、イスラム教勢力に伴い、衰退した。今ではインドの一部の地域で信仰され、彼らはパーシーと呼ばれている。
「アエーシュマ」とは?意味と定義
アエーシュマ(aeshma):ゾロアスター教の中に登場する悪魔で、悪神アンラ・マンユ(アーリマン)が率いる悪魔の筆頭。聖典『アヴェスター』の中では血塗られた混紡や刃物などの武器をもった姿で描かれている。人間の「憤怒」や「激怒」、「残忍さ」をつかさどる悪魔。アエスマ、アエーシャマともいう。
旧約聖書外典『トビト書』:娘に取り憑いたアスモデウス
「トビト書」とは?意味と定義
トビト書(book of tobit):捕囚の地に生きたトビトの物語。ユダヤ教では外典、カトリック教会では第二正典。アッシリア捕囚で連れて行かれ、ニネベに暮らすナフタリ族トビトの物語。悪魔アスモダイ(アスモデウス)が資産家の娘であるサラに取り憑き、次々と初夜に夫を殺してしまう。娘は悩み、死を願っていたが、神がこれを聞いて大天使ラファエルを差し向ける。ラファエルは人間アザリアに変身し、トビトの息子トビアにアスモデウスを退治させる方法(魚の心臓と肝臓をいぶす)を教え、退治させたという。そうしてトビアはアスモデウスを追い出し、サラと結婚した。逃げ出したアスモデウスはその後、ラファエルに縛り上げられた。
「ラファエル」とは?意味と定義
ラファエル:ミカエル、ガブリエルに次ぐ三大天使の一人。悪魔をはらったり、病気を癒す天使。「神が癒やしたもの」の名を持つ。旧約聖書『トビト記』では旅をするトビアに同行して導いている。『エノク書』では冥界を旅する人の案内人をつとめたり、アザゼルを幽閉したりして登場する。
「情欲」の悪魔として知られるアスモデウスのルーツはトビト書からきているそうです。情欲とは一般に”異性の肉体に対する欲望”を意味します。
アスモデウスはメディアの町に住む資産家ラグエルの娘サラに取り憑いたといいます。そしてサラが結婚して夫と初夜を迎えようとすると、アスモデウスはその夫を殺していきました。なんと7人連続で初夜に殺されたのです。さすがに街の間でもサラには悪魔が取り憑いているのではないかという噂が広まります。アスモデウスは好色で知られていたので、嫉妬して夫を殺したのではないかということです。
娘と結婚したいと思う男はいなくなり、町では悪魔憑きと噂され、奴隷にまではずかしめの言葉をきかされるようになり、サラは自殺しようとします。
そうした話を聞いた神が、大天使ラファエルになんとかするように地上に遣わせます。
ラファエルは人間アザリアに変身して、トビトの子トビアに近づきます。一緒にサラが住む町メディアに行くことになりました。トビアはメディアの町に父のいいつけで貸したお金を回収しに来ていたそうです。町でサラの噂を聞き、アザリアがトビアにサラと結婚するように勧めると、トビアはこう答えました。
「兄弟アザリアよ、わたしの聞いたところでは、彼女はすでに7人の男に嫁がせられ、その男たちは彼女のもとに入ったその夜、彼らの新婚の部屋で死に、そうして次々に死んでいったということです。悪魔はが彼らを殺したのだと人々が言っているのを私は聞きました。ですからわたしは恐ろしいのですーー悪魔は彼女には木が家を加えないで、だれでも彼女に近づこうとする男を殺すというのであり、私は父のひとり子なのですからーーわたしが死んで父母を悲しませ、父母の生命を彼らの墓へ送り込むことにほかなりはしないのかと。彼らには、わたしのほかには彼らを葬るべき息子はないのです(『トビト書』)。」
しかしアザリアは悪魔のことは心配しないでいいといいます。そういって「魚の心臓と肝臓」をいぶせば悪魔はたちどころに逃げていってしまうと説明しました。トビアはアザリアのいうことを信じ、サラと結婚することを決意します。
トビアはアザリアの言いつけどおり、初夜の日に香炉に持参した魚の内臓を置くと、アスモデウスが逃げていったのです。アスモデウスが最も嫌いな臭いです。そして逃げていくアスモデウスをラファエルが追いかけ、縛り上げてエジプトの果てに幽閉してしまったそうです。
「ソロモン王の遺言」:人間の娘と天使の間に生まれたアスモデウス
「ソロモン王の遺言」とは?意味と定義
『ソロモン王の遺言』は紀元後1-5世紀頃のエジプトでギリシア語で描かれたもの。ソロモン王に関連した魔術書の中かで最も古い。
紀元前10世紀のイスラエル国王ソロモンが神殿を築いてたときのことが記されている。ソロモンが神殿を建築しようとすると、悪魔の妨害を受けたので神に祈りました。そうすると大天使ミカエルが現れ、魔法の指輪をソロモン王に授けます。この指輪には悪魔を支配下に置く紋章が刻まれていて、ソロモンは指輪を使って悪魔を召喚し、従え、建築を手伝わせ、驚くべき速さで神殿は完成します。そこで悪魔たちは自分を呼び出したり、従わせたりする呪文を告白したので、魔術書として有名になったのだと思います。結局ソロモン王は異国から来た女性に夢中になり、指輪の力を失ってしまうそうです。
ソロモン王に呼び出されたアスモデウスはこう言っているそうです。
「私は人間の娘と天使との間に生まれたので、人間には傲慢に見えるだろう。住んでいるのは人間が大熊座と呼んでいる星の近くだ。新婚の男女を引き裂き、若い女をもてあそび、人間を狂気に陥らせるのが私の仕事だ。しかし、魚と胆のうをいぶらされると逃げ出してしまうし、天使ラファエルも苦手だ(『ソロモン王の遺言』)。」
『ソロモン王の遺言は』紀元前1-5世紀と比較的遅く作成された書物です。おそらく『トビト書』のエピソードをそのまま流用したのだと思います。
人間の娘と天使との間に生まれたということは、グリゴリの一人ということになりますね。有名な悪魔アザゼルもグリゴリの一人という説があります。
「グリゴリ」とは?意味と定義
グリゴリ(grigori):見張りの天使(watchers)ともいう。人間の行動を監督するために地上に送られた天使のグループで、人間の娘との間に子を作り、堕天使となった。アザゼルやアスモデウスもグリゴリの説がある。
ミカエリス神父『驚嘆すべき物語』:アスモデウスのは第一階級
「ミカエリス神父」とは?意味と定義
・ミカエリス神父:17世紀のフランスの宗教家。有名なエクソシスト(悪魔祓い師)である。1601年にフランスのエクサン=プロヴァンスの女子修道院で悪魔憑き事件が起き、修女マドレーヌに悪魔が憑依したときにミカエリス神父が悪罵払を行った。そのとき憑依していた悪魔であるハリベルトから、彼女に憑依していた悪魔や他の悪魔の種類・特徴・敵対する聖者の名前を聞いたらしい。そのときの内容が『驚嘆すべき物語』に収められ、天使の階級と対応する悪魔の階級として有名になっている。
悪魔の名前 | 階級 | 天使時代の位階 | 誘惑する罪 | 敵対する聖者 |
---|---|---|---|---|
ベルゼブブ | 第一階級 | 熾天使の君主 | 驕慢(きょうまん) ※おごりたかぶること | 聖フランチェスコ |
レビヤタン | 第一階級 | 熾天使の君主 | 不信仰 | 聖パウロ |
アスモデウス | 第一階級 | 熾天使の君主 | 貪欲・不貞 | 洗礼者聖ヨハネ |
バルベリト | 第一階級 | 智天使の君主 | 殺人・冒涜(ぼうとく) ※崇高なものや神聖なもの、または大切なものを、貶める行為 | 聖バルナバ |
アスタロト | 第一階級 | 座天使の君主 | 怠惰 | 聖バルトロメオ |
ウィリネ | 第一階級 | 座天使の2位 | 短気 | 聖ドミニコ |
グレシル | 第一階級 | 座天使の3位 | 不浄・不潔 | 聖ベルナルドゥス |
ソネイロン | 第一階級 | 座天使の4位 | 敵への憎悪 | 聖ステパノ |
カレアウ | 第二階級 | 能天使の君主 | 頑固 | 聖ウィンケンティウス |
カルニウェアン | 第二階級 | 能天使の君主 | 卑猥・厚顔無恥 | 福音書記聖ヨハネ |
オエイレト | 第二階級 | 主天使の君主 | 贅沢 | 聖マルティヌス |
ロシエル | 第二階級 | 主天使の2位 | 恋情 | 聖バシリウス |
ウェリエル | 第二階級 | 権天使の君主 | 不従順・肩こり | 聖ベルナルドゥス |
ベリアス | 第三階級 | 力天使の君主 | 傲慢(ごうまん)・見栄・不貞 | 聖フランチェスコ |
オリウィエル | 第三階級 | 大天使の君主 | 残酷・無慈悲 | 聖ラウレンティウス |
イルウァルト | 第三階級 | 天使の君主 | 不明 | 不明 |
ミカエリス神父による悪魔の位階では、アスモデウスは第一位で、元熾天使の長クラスだったようです。熾天使の長といえばミカエルやガブリエル、ラファエルなどに匹敵する位階ということになります。
もっとも天敵ラファエルには縛られてエジプトに幽閉されているのでそこまで強くないのかもしれません。
敵対する君主は聖ヨハネで、誘惑する罪は貪欲・不貞です。
ルサージュ「あしなえのデヴィル」(1707年):アスモデウスは飛行する
アラン・ルネ・ルサージュによる『あしなえのデヴィル』です。「悪魔アスモデ」という邦題のほうが有名かもしれません。
「あしなえのデヴィル(悪魔アスモデ)」とは?意味と定義
・18世紀のフランスの作家、アラン・ルネ・ルサージュによる小説。主人公の学生ドン・クレオファスが追ってから逃げる場面から始まります。とある屋根裏部屋に逃げ込んだところ、フラスコに閉じ込められたアスモデと遭遇します。アスモデは占星術師であり魔術師でもある家の主にフラスコに閉じ込められたといい、出してくれれば礼をすると言います。アスモデは追われている原因は逢い引きしている女(ドニャ・トマーサ)が仕組んだものであると真実をクレオファスに伝えると、クレオファスはアスモデを開放しました。それからアスモデは夜の飛行にクレオファスを連れ出し、魔法で屋根を取り除いて人々の私生活の秘密(強欲な金貸し、浮気症の女、傲慢な貴族、けちな老人など)をクレオファスに見せるという物語です。アスモデはもちろん有名な悪魔であるアスモデウスのことです。
アスモデウスは巨人で頭が3つある怪物のイメージでしたが、フラスコから出ると小さな悪魔ですね。この小説で出てくるアスモデウスのイメージは礼儀に厚く、世の中を冷めた目で見る知恵者みたいです。
一方で、あしなえという表現がある通り、足が不自由なようです。二本の松葉付を両手にもっていることから、二本杖のデヴィル、あしなえのデヴィルと呼ばれるそうです。
なぜ足が不自由になったのかをアスモデは小説の中で説明しています。どうやらピラードックという収穫の霊・質屋のパトロンとして若いパリっ子の心を支配している悪魔と飛行の勝負で負けてしまったそうです。アスモデは地上に落とされ、足を悪くしたということです。杖をついていても、動きは早いそうです。
ルサージュの小説は元々、1641年のベレス・デ・ゲバラの『跛(ちんば)の悪魔』から着想を得たといわれています。跛のあくまでは、悪魔アスモデが悪戯心と風刺の天才として描かれています。
ルサージュの無言劇『目に見えないアルルカン』にもアスモデウスは登場しているようです。アスモデウスはアルルカンに仕えていて、帽子に羽をつけることで透明にする魔術を使ったそうです。
「アルルカン」とは?意味と定義
・18世紀のフランスの作家ルサージュによる無言劇『目に見えないアルルカン』に登場する。悪魔との関連では、アルルカンにアスモデウスが仕えている。アスモデウスはアルルカンの要求で帽子に羽をつけて、帽子を被ると透明になるような魔術をかけてあげた。
アルルカンはイタリア語のアルレッキーノのフランス語読み。イタリアの即興喜劇コメディア・デラルテ中のキャラクターの一つで、トリックスターとして知られる。トリックスターとは神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を展開する者。盗み絵や悪戯を行うが最終的に良い結果になる事が多いらしい。
コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』:地獄の王としてのアスモデウス
「地獄の辞典」とは?意味と定義
・『地獄の辞典』は1826年にフランスの文筆家コラン・ド・プランシーによって描かれた悪魔などのエピソードを集めた辞書形式の書籍。M・L・ブルトンによる挿絵が有名。情報力が多いが、中には誤りも多くあるらしい。
『地獄の辞典』によれば、アスモデウスは地獄の七人の王の一人で、72の軍団を率いているそうです。
有名なアスモデウスのこの絵は、『地獄の辞典』の挿絵でブルトンによるものです。どことなくバエルと似ていますね。
アスモデウスは竜に乗っているみたいですね。竜といえばゾロアスター教ではダハーカ竜という魔物がいましたね。アエーシュマとダハーカ竜は悪神アンラ・マンユの指揮官クラスの手下です。
牡牛(おうし,雄の牛)、人、牡山羊(おやぎ)の三つの顔と蛇の尾がある姿で、地獄の竜にまたがり、口から火を吐きながら旗付きの槍を持って現れるといわれています。足がガチョウみたいですね。
こうした姿は福音伝達者を象徴する4つの動物のパロディともいわれています。牛、羊、蛇(竜)、ガチョウですかね。
『レメゲトン』においても同様の記述があるので、コラン・ド・プランシーは参考にしたのだと思います。
民間伝承:アスモデウスは知識を授け、財宝を与える
アスモデウスは人間が丁寧に頼めば(召喚後に契約)、鷲肉を提供してくれ、宇宙の神秘や富を与えてくれるとオカルティストの間では考えられているようです。
アスモデウスは幾何学、算術、天文学、工芸学に詳しく、隠された財宝を見つけることができるそうです。また、不可視の術ももっているといいます。人間を見えなくすると聞くと、ロード・オブ・ザ・リングの指輪を思い出しますね。
17世紀に起こったルーダンの悪魔憑き事件:アスモデウスの契約書
「私は、この修道女から立ち去るとき、針ほどの長さの切り口を心臓の下につくり、その切り口は彼女の下着、胴着、上衣を血で染めるであろうことを約束します。そして、明日、5月20日の日曜日午後5時、悪魔のグレジルとアマンも同様にしてやや小さい切り口をつくることを約束しますー私は、レヴィアタン、ベヘモト、べーリその他の仲間たちがした約束、すなわち、出るときには聖十字架教会の登録簿に署名するという約束を認めます。1629年5月19日記 アスモデウス(署名)(『魔法 その歴史と正体』K・セリグマン著 平田寛訳 人文書院刊)」
フランスのルーダンという田舎町の修道院でおきた悪魔憑き事件です。ある美男子の司教(ユルダン・グランディエ)が新しくこの町に来たことからはじまります。司教は美男子なので町の婦人たちの注目の的になり、街中に噂が広がっていきました。司教は多くの女性と関係をもつことになります。
そうした状況をみて、司教を破滅させたいと考えた政治的敵対勢力が「悪魔憑き現象」をでっちあげたのです。修道院長ジャンヌ・デ・ザンジュなどの人間に多くの悪魔が取り憑き、取り憑いた原因は司教が修道院に投げ込んだバラの中に悪魔がいたからだ、と調査によって暴露されたのです。アスタロトやレヴィアタン、アスモデウスなど有名な悪魔が取り憑いています。
悪魔憑き騒動が始まったのは1632年の10月で、裁判が開かれましたが裁判所や医者は悪魔によるものではないと判断して一旦はおさまりました。しかし1933年の夏に再び最大の敵対勢力である枢機卿リシュリシューが動き、腹心のローバルドモンが司教を取り調べ、アスモデウスの契約書などが証拠として提出されたのです。
結局1634年8月18日に、司教グランディエは生きたまま火刑になったそうです。
『失楽園』:反逆天使としてのアスモデウス
「失楽園」とは?意味と定義
『失楽園』(1667年):ジョン・ミルトンによる旧約聖書の『創世記』をテーマにした叙事詩。ヤハウェに叛逆して一敗地にまみれた堕天使のルシファーの再起と、ルシファーの人間に対する嫉妬、およびルシファーの謀略により楽園追放に至るも、その罪を自覚して甘受し楽園を去る人間の偉大さを描いている(WIKIより)。
アスモデウスが登場するのはサタンの天国に対する戦いが描かれている第六巻です。反逆天使アデランメレクとともに、反乱軍の両翼を指揮するものとして登場しています。悪魔アスモデウスのかつての姿として設定されてリウ用です。おそらく天使の姿ですね。天使軍の両翼を指揮しているのは大天使ウリエルと大天使ラファエルです。アスモデウスはラファエルと戦いますが抵抗できず負けたそうです。ラファエルには『トビト書』でも負けていますね。
バレット『メイガス』(1801年):犯罪の復讐者の王としてのアスモデウス
「『メイガス』」とは?意味と定義
・1801年にバレットによって書かれた本。バレットは占星術師であり、悪魔学者。『悪魔の辞典』の著者フレッド・ゲディングズはバレットの本を批判している。「バレットは自分ひとりがよく知る理由から、ビンスフェルトが示しているような、デーモンが七つの大罪を支配することに関わる伝統というものを、変更して汚している」と評している。
悪魔の名前 | 王の種類 |
---|---|
マモン | 誘惑者の王 |
アスモデウス | 犯罪の復讐者の王 |
サタン | 幻惑者の王 |
ベルゼブブ | 偽りの神々の王 |
ベリアル | 罪悪人(カード遊びやサイコロ遊びをする程度)の王 |
メリヒム | 疫病をもたらす霊の王 |
アバドン | 邪悪な戦争の王 |
アスタロト | 告発者と審問官の王 |
ピュト | 嘘の王 |
フレッド・ゲディングズによれば「パレットの弱体化したデーモン学伝承においては、アスモデウスは犯罪の復讐者の君主」にすぎないとあります。ピンスフェルトはアスモデウスを七つの大罪のひとつである「好色」に位置づけていたので、弱体化と表現したんですね。トビト記などでもアスモデウスは好色として表現されているので、犯罪の復讐者の君主というのはたしかに伝統と反していると考えることができます。俺だけは悪魔の正体を知っている、アスモデウスは犯罪の復讐者の君主だ!という物言いが気に食わないみたいです。
ピンスフェルト『魔女と悪人の告白について』(1589年):七つの大罪の一人としてのアスモデウス
「『魔女と悪人の告白について』」とは?意味と定義
1589年にペーター・ピンスフェルトによって書かれた本です。ピンスフェルトはドイツのイエズス会士であり、デーモン学者です。フレッド・ゲディングズは『地獄の辞典』で七つの大罪にふれ、「このリストは考えとして独創的なものではないにせよ、本来のものと大きく異なっており、デーモン学の歴史をほとんど知らぬまま、個々の罪を支配するデーモンを選択したとおぼしいが、通俗的なグリモアでさかんに利用されつづけた」と酷評しています。
悪魔 | 七つの大罪(支配する罪) |
---|---|
ルシファー | 驕り(おごり) |
マモン | 強欲 |
アスモデウス | 好色 |
サタン | 憤怒 |
ベルゼブブ | 好色 |
レヴィアタン | 嫉妬 |
ベルフェゴール | 怠惰 |
アスモデウスは七つの大罪の中で「好色」を司っています。
英語版WIKIで説明されているアスモデウス
「after Solomon defeated him, Asmodeus was imprisoned inside a box of rock, chained with iron, and thrown it into the sea」
イスラム教の伝承において、アスモデウスは「Sakhr 」と名付けられているらしいです。ソロモン王がアスモデウスを打ち破った後、鉄の鎖で縛り、岩でできた箱に閉じ込めて海に沈めたそうです。
「Asmodeus is consulted by a young Jewish boy, who tried to find the Islamic prophet Muhammad, in The Nights. During their conversation, he asked about hell, thereupon Asmodeus describes the different layers of hell」
若いユダヤ人の男の子がアスモデウスに助言を求めたそうです。内容はイスラム教の預言者であるムハンマドを見つけたいとのことです。相談している会話の中で、少年は地獄のことを聞いたそうです。
In the Malleus Maleficarum
In the Malleus Maleficarum (1486), Asmodeus was considered the demon of lust.[31] Sebastien Michaelis said that his adversary is St. John. Some demonologists of the 16th century assigned a month to a demon and considered November to be the month in which Asmodai’s power was strongest. Other demonologists asserted that his zodiacal sign was Aquarius but only between the dates of January 30 and February 8.
He has 72 legions of demons under his command. He is one of the Kings of Hell under Lucifer the emperor. He incites gambling, and is the overseer of all the gambling houses in the court of Hell. Some Catholic theologians compared him with Abaddon. Yet other authors considered Asmodeus a prince of revenge.
クラーマーによって書かれた『魔女に与える鉄槌』(1486年)ではアスモデウスについて言及されているらしいです。
アスモデウスは好色(lust) の悪魔として考えられ。聖ヨハネを対立者としています。アスモデウスを11月にもっとも力が強くなると考えられているようです。また占星術の十二宮ではみずがめ座に当たると主張する人もいるようです。また72の地域を支配し、皇帝ルシファーの部下の王のひとりです。賭博をそそのかし、地獄の宮廷にある賭博施設の監督官でもあるようです。
アスモデウスのイラスト
/
参考文献
参考書籍
4:堕天使―悪魔たちのプロフィール (Truth In Fantasy)
5:悪魔事典 (Truth In Fantasy事典シリーズ)
・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%83%87%E3%82%A6%E3%82%B9
・http://kimyo.blog50.fc2.com/blog-entry-46.html
引用画像
1:https://en.wikipedia.org/wiki/Asmodeus
2:http://www.theparanormalguide.com/blog/aeshma
3:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%83%87%E3%82%A6%E3%82%B9
4:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%8E
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