寒色系と暖色系

定義

寒色(cold color):見た目に冷たく感じられる色。色相でいうと赤、橙、黄*1

暖色(warm color):見た目に暖かく感じられる色。色相でいうと青、青紫*1

中性色(neutral color):暖色と寒色に挟まれる色。暖色と寒色どちらとも感じられない中立な色。緑や紫*3

どの色が一番暖かく、一番冷たく感じるか

Newhall(1941)や塚田敢(1966)による説

赤が最も暖かく、青が最も冷たく、緑と紫は中間に位置するとしている*1

千々岩英彰(1999)による実験
1位2位3位
一番暖かく感じる色橙色赤色黄色
一番冷たく感じる色水色青紫色白色
青系と赤系の心理的作用

暖かく見える色は同時に進出していると感じ、膨張していると感じ、あるいは興奮を感じさせる色でもあります。

冷たく見える色は同時に後退していると感じ、収縮していると感じ、あるいは鎮静を感じさせる色でもあります。

色が温度感を生じさせる理由は科学的にまだ分かっていませんが、心理的な作用を生じさせるというのは確かなようです。また文化によってもどの色に温度を一番感じるかといった違いもあります。とはいえ一般的に赤系は暖かく、青系は冷たく感じるというのは各国共通しているようです。

個人的な感覚では赤系は火を連想させ、青系は水を連想させるので心理的な温度を感じるのではないかと思っています。メタファー(暗喩)的な意味での色ということです。そういった意味で千々岩さんの研究結果に水色が出てきたというのは、氷にちかい色を連想させるからかもしれません。雪や氷は青というより白や水色を連想させる色です。火や太陽が暖かい、水や氷が寒いというのは世界的にも一般的な感覚です。

大山正(「色彩の心理効果」1962,1994)の研究による暖色と寒色の心理的作用の相違

暖色は「近い、丸い、危ない、騒がしい、派手な」などのイメージを与える。暖色は近く(大きく)見える。

寒色は「遠い、角張った、安全な、静かな、地味な」などのイメージを与える。寒色は遠く(小さく)見える。

寒暖色のその他の心理作用例

赤と黄色は円に、青は三角形とイメージが似ている(出村洋二,「色彩と形態の関連性について」,1978)。

暖色は長調の曲、寒色は単調の曲と連想が一致する(白石学,「調律に対する視覚的要素」,1999)。

赤照明下では時間がたつのが速く、青照明下では緩慢に感じられる(Smetz,「The expression of red and blue,Percept.Motor Skills」,1978)。

寒暖色による臨床例

人に赤い色彩環境を一定時間与えると血液の上昇傾向が見られ、青の生活環境では血液下降傾向、鎮静傾向が見られる。中性色ではどちらでもない臨床例が報告されている。色の寒暖は色の三属性のなかで特に色相に関係して生じる感情*2

進出色と後退色

進出色(しんしゅつしょく,英:advancing color):近くに見える色。色相でいうと赤や黃などの長波長側の色*1

後退色(こうたいしょく,英:receding color):遠くに見える色。色相でいうと青や青紫などの短波長側の色*1

たとえば黒を背景に白い絵をかけ進出感があり、白を背景に黒い絵を描けば後退感があります。つまり対比によってより感じやすくなるということです。赤だけの絵と青だけの絵を比べた場合、たしかに赤だけのほうが進出感がありますが、青を背景に赤があれば赤はより進出を感じます。

暖色系を背景に寒色系を入れれば、寒色系で描いた絵はより後退感を感じます。より寒い感じ、より収縮した感じ、冷静な感じ等、青系が本来もつ心理的作用が比較によってより強調されうということです。

進出・後退は背景色の彩度が低いものに対して、彩度の高い色が進出することもあるようです*2

膨張色と収縮色

膨張色(ぼうちょうしょく,expansive color):物の大きさが大きく見える色*1

収縮色(しゅうしゅくしょく,contractive color):物の大きさが小さく見える色*1

明るい色ほど大きく見え、暗い色ほど小さく見えます。太陽や月、星といった明るい物体が大きく見えることは古代ローマの時代から知られていたらしいです。明るいものほど大きく見える現象を「空間荷重効果」ともいい、生理学者のBalow(1958)が実験しました。

Walis(1953)は立方体の大きさを比較し、黄色>白>赤>緑>黒>青の順に大きく見えたといっています。

同じ光の強さでも色によって人間が感じる明るさの違いというものがあります。比視感度といわれるもので、黄色が一番明るく感じ、赤は中間に、青は低く感じます。こういった人間の知覚構造と照らし合わせてもやはり暖色系は大きく感じ、寒色系は小さく感じるようです。

カラーバランスと寒暖色の関係について

カラーバランスとは

カラーバランス(color blance):カラーバランスとは2色以上の配色における各色の面積や配置などの関係が、視覚的、感覚的、心理的に安定を保っている場合を指す。このような状態は落ち着いた統一のとれた美しさを構成し、見る人に心地よい安定感を与える*1

カラーハーモニーとはすこし違う概念なので気をつけてください。カラーハーモニーの場合は「隣接している2色以上の色刺激が、心地よい感情反応をつくりだすとき、それらの色刺激は色の調和を示す(Burnham,「Color-A guide to basic facts and concept」,1967)」といったものです。安定感と心地よさは似ていますがニュアンスがすこし違いますよね。2つの概念は重なるところも多くありますが、区別したほうがいいと思います。

カラーバランスと寒暖色

暖色系の色は面積を小さく、寒色系の色は面積を大きくするすることによって全体としてバランスの取れた配色を得ることができるようです*1。暖色系は進出色や膨張色でもあり、目に訴える力が強く、寒色系は後退色や収縮色でもありあまり目立たないからです。目立たない色の面積を大きくし、目立つ色の面積を小さくすることによってバランスをとれうということです。

寒暖色という色相以外の観点でも同様にカラーバランスというものは存在します。たとえば彩度が低い色は面積を大きくし、彩度が高い色は面積を小さくしたほうがバランスをとることができるようです*1。明度の観点でいえばマンセルによると明度軸の中心点N5から等しい距離で離れた2色はバランスをとれているそうです*1。単純化すれば明るさを1-10として、3と7は調和します。-2と+2で調和しているからです。

他にも色の軽重や強弱、あるいは嬉しさ悲しさといった対立する2つの要素でどのようにバランスをとるかといった問題など幅広く考えることができると思います。カラーバランスは絵を描く際に考慮するべき事項ですが正解はありません。こうしたほうがバランスはとれますよというヒントは得られますが、こうしたほうがあなたが描きたい絵がかけますよ、こうしたほうが美しいですよといったことには必ずしもなりません。

どういった絵を描きたいのかという目的をまず設定して、そこに準じたバランスが作品ごとにあるはずなので逐一”自分の”カラーバランスはどのように設定しよう、あるいはどのように崩そうなどと考える必要があると思います。カラーバランスの試行錯誤に寄って色の使い方の個性にもつながっていきます。

影の色と寒暖色の関係について

物体がどのような色で照らされているのか

「デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則」という本でGilles Brloeilが「私が従うたった1つの色のルールは『光源が暖色系の場合は影を寒色系に。光源が寒色系の場合は影を暖色系にする。』といっていました。

彼は色彩理論を絶対的なものと思うなと言い、色彩調和を重視しています。彼の言葉で言う色彩調和(カラーハーモニー)は「いい調和を生み出すには単一の支配的なカラーグループが存在する必要がある」とのことです。

たとえば支配的なカラーグループを「寒色系」と決めたら青系のグループの色が支配的になります。どのような色を塗るにせよ、すこし青色を混ぜるといったように他の色も調和させるということです。そのほうがシーンの光の特性が反映され、イメージが調和するそうです。

光源が暖色系の場合は場合にもよりますが暖色系が支配的なカラーグループになると思います。光源が暖色系とは太陽の下や火の近くといったことだと思います。反対に光源が寒色系の場合は洞窟の中や曇天の下、月夜の下などが考えられます。他にも人工的な光の中ならどうなるか、わざと太陽を青くしたらどうなるかなどといった想像によって光源を変更することもできます。

カラーバランスを考えても暖色系の色ばかりではバランスがとれないので、あえて影の色には寒色系をつかうといったことは理にかなっているとおもいます。つまり影の色に青系の色を少し混ぜたりするということです。もし寒色系ばかりの色の場合は影の色に赤やオレンジといった色を少し混ぜることでバランスをとるということです。中間色である緑や紫といった色も支配色にしたがって、青をすこし混ぜる、赤を少し混ぜるといった調整が必要になります。

寒暖色と補色の関係

補色:色相環で正反対に位置する関係の色の組み合わせ。狭義の補色は適当な割合で加法混色すると白色になるような色の対。赤と緑などの組み合わせ(反対色という)や色残像で出現する色を補色と呼ぶ場合もある*4

波長と色の関係(日立さんのサイトを参考に)

波長(nm) 補色(余色)
~400紫外
435~480
480~490緑青
490~500青緑
500~560赤紫
560~580黄緑
580~595
595~610緑青
610~750青緑
750~赤外

カラーグループを暖色系が支配的か寒色系が支配的かという二元的な考え方をすると補色が重要になってきます。たとえば青の色が支配的だとその補色である黄色を影の色に取り入れるといったことができるからです。シアンの場合は橙色、青緑の場合は赤色といった具合に使い分けができます。補色とは相補的な色、お互いの色を引き立てる色とも言われているので覚えておいて損はないと思います。

もちろん実際に塗るときはこのような単純な色ではなく様々な色が混ざった青や赤色を使うと思うのであくまでも目安として使うことができます。デジタルの場合はRGB比で比率が確認できるので補色の関係がすこし楽になります。

ジェームズガーニーの「カラー&ライト」

色と光に関する有名な本です。順応とコントラストの項目で「光の冷たさを強調するために、影には暖色の色相を入れてあります」とあります。つまりコントラスト(対比)による強調効果です。補色による強調効果とも解釈できます。寒色の光は人工的な感じがあり、不自然さを出すためには有用といえます。ただしバランスをとるため、あるいは強調するために影は暖色系を取り入れたほうがよさそうです。最後にジェームズガーニーさんのありがたい言葉を引用して終わります。

これらの知識は、制作にどう役立つのでしょうか?こうした現象をすべて知っていれば、それらを活用して絵が作り出す幻想をさらに高めることができます。あるシーンを観察する場合は、色を隔離するようにしてみましょう。また、その色を同じシーンの中の他の色と比較してみましょう。そうして自分に質問します。これは色相、明度、それとも彩度がどう違うのだろうか?混色で作る必要がある色を本当の意味で知るには、そのシーンの中の他の色(特に既知の白い色)と比較するしかありません(147P,強調は独自のもの)」

参考文献

1:「色彩用語辞典」日本色彩学会(東京大学出版会)

2:「造形と色彩」小林嗣幸(日本理容美容教育センター)

3:「デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則」(ボーンデジタルインク)

4:「色彩光学入門」定量的な色の理解と活用,篠田博之,藤枝一郎(森北出版株式会社)

toki

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