油絵具とはなにか

定義

油絵具(あぶらえのぐ,Oil Paint):顔料と油を練り合わせて作られた絵具。油は乾性油が最も多く使われる。

特徴

1:透明性と艶(つや)
透明な画面:光源からの光は、表面の絵具層を通過して下層まで到達し、反射してくる。下層が透けて見れる状態である。つまり透明な画面になっているわけである。下層で反射する光はその分だけ道程が長くなるし、固着剤の中を通過するときは空気中を通過するときよりエネルギーの消費が大きいため、入射光に比べて弱くなっている*1

透明度・不透明度の微妙な特色を生かす能力において、油絵具は数ある描画材料の中でももっともすぐれている*15

水と比べて屈折率の高い乾性油や樹脂は多くの顔料をより透明化させ、艶のある深い透明層をつくる*14。

*1

上の画像で言うところのaが油絵具にあたります。bは透明水彩でcは不透明水彩です。油があるおかげで表面が他の絵具にくらべて凸凹していません。凸凹しないということは艶があり、透明度が高いということです。透明な氷にデコボコをつけると不透明になるように、表面のつるつるは透明性に関係しています。油画ある分、光が油を通って反射する際にエネルギーが奪われるのでエネルギー量が減り、暗く見えます。15世紀の油彩画のフランドル派のように明部は不透明に、暗部は透明に塗る技術は、不透明さが明るさを上げ、透明さが明るさを下げる性質を利用していることがわかります。油絵具の場合でも薄く塗れば透明に、厚く塗れば不透明にできます。

2:可塑性(かそせい)
可塑性(かそせい,英:):固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとに戻らない性質(「小学館」)。

正直可塑性って分かりにくいですよね。水彩絵具より油彩絵具のほうが可塑性が高いといわれています。水彩絵具の場合は絵具を水で溶かして使いますよね。塗った直前は水分がありますが、しばらくすると水分は蒸発してしまいます。つまり乾く前と乾いた後では発色が異なるということです。油絵の場合は油が蒸発するということは基本的にないので、そのまま残ります。そうした”筆跡をそのまま残す“という意味で油絵には可塑性があるといえます。

筆跡がそのまま残るということは、塗り重ねしやすいということに繋がります。もし油が水のように蒸発してしまえば、乾燥したあとで思ってたのと違う塗り重ねになってしまいますが、油は蒸発しないので自分のイメージ通りに塗り重ねしやすくなります。乾燥した後でも体積が減らないというのは油絵の利点です。分厚く盛り上げる技法としてインパスト技法があります。いわゆる厚塗りです。

15世紀頃の油絵具は透明性が高い分、流動性が高いです。現在の油絵具のチューブのような可塑剤が入っていないのでより液体に近いです*7。17世紀末期になると練りの固い絵具が使われるようになりましたが、毎回制作者が顔料と固着剤を混ぜ合わせる必要がありました。1841年になって金属のチューブが誕生し、絵画の制作者は絵具を作る手間から解放されました。固い練りの調子の絵具は筆のタッチを残す技法やナイフによって盛り上げる技法を生み出し、制作形態に強い影響を及ぼしたそうです*1

・蒸発乾燥によりかさが減る水性絵具に対し、酸化重合による油絵具の乾燥は絵具をやせさせることなく描いた筆跡をそのまま維持し、可塑性のある絵肌をつくる。ヴェネツィア派以降、絵具が固練りされるようになったことで絵具の可塑性は油彩画をより特徴づけるようになった*6

・油絵の具は可塑性に富んでいるため,絵の具の盛り上げ(インパスト)を容易に行うことができる*14

・水性絵の具である水彩絵の具やアクリル絵の具などの場合,乾燥の過程で絵の具に含まれる水が蒸発するため乾燥後は体積の減少が見られ,いわゆる色痩せの
状態になる。油絵の具はそのような現象がないため,乾性油の持つ強い粘性も手伝って,絵の具を厚く塗ることは得意な色材であるといえる *14

3:乾燥がゆっくり

油絵具は乾燥までに時間がかかります。正確にいうと油は固化します。水の場合は蒸発、油の場合は固化です。固化とは簡単にいえばかたくなることです。油絵具で塗ったばかりの状態を「画面が濡れている」と表現するとがあります。乾燥するという言葉は主に「画面が濡れている状態から塗れていない状態への変化」を意味しています*1。乾燥が遅いので修正がしやすいというのも油絵のポイントだと思います。

油の乾燥速度を利用するのがウェット・イン・ウェット技法です。

ウェット・イン・ウェット技法:画面上で絵具がぬれているうちに、別の絵具を塗り重ねること*15。レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)はウェットインウェット技法を利用することで(柔らかな煙のようなぼかしの)スフマート技法を確立した*6

スフマート(sfumato)技法:レオナルド・ダ・ヴィンチが考案したとされる物体の輪郭を柔らかくぼかして描く技法*16

・油絵具の手応え十分な表現力は、乾燥がゆっくりな性質を生かして、一度塗った色でも後で修正がきき、画面上の位置をずらすように描き直せることによる*15

分類

絵具の分類上の油絵の位置づけ

顔料(がんりょう,英:pigment):色の粉。水、油、溶剤などに溶けない、化学的、物理的に安定している微粒子状の個体で、物に色、意匠(デザイン)効果、機能を与えるもの。絵具、印刷インキ、塗料、プラスチック、化粧品などに用いられる。有機顔料と無機顔料があり、有機顔料は主に着色顔料として用いられる*3

展色剤(てんしょくざい,英:vehicle):顔料と混ぜ合わせて、絵具、塗料、印刷インキなどをつくる液体成分。天然樹脂、合成樹脂、繊維素、膠(にかわ)、澱粉(でんぷん)、植物油、カゼイン溶液などが用いられる*3

媒材(ばいざい,英:medium):絵画用語としてのメディウムは、展色剤(vehicle)と同義の媒材として使用されるほか、筆、画架、絵具、コンテなどの用具、材料を指したり、水彩画、油画、銅版画、石版画、あるいは彫刻、塑像などの表現手段を指すこともある。英文の絵画材料、絵画技術に関する書物を読む場合には気をつけなければならない*2

支持体(しじたい,英:support):支持体は、地塗りと絵具層を支える下敷きとなるものであり、梅雨上、木版、麻布(カンバス)が使用される。その他、紙、厚紙、羊皮紙、象牙、銅板、ガラス、医師なども挙げられる*2

絵具は顔料と媒材(メディウム)から成り立つものです。顔料はいわゆる色の粉です。媒材は色の粉を紙などに定着させる役割をもっています。メディウムを展色剤ともいい、特に定着させる役割の成分を固着剤といいます。固着成分以外にも補助成分や希釈液、乾燥調整剤、形成助剤、粘性調整剤、界面活性剤、防腐防黴剤、湿潤剤などが絵具によって使われています。

絵具は発色剤(顔料)、固着剤、補助剤の3つに分けられます。媒材や展色剤は狭義には固着剤を意味することが多いです。ただし広義には固着剤と補助剤の両方を含めて展色剤、媒材という場合もあります*4

油絵具の場合は固着剤は油(乾性油)、水彩絵具の場合は植物性ゴム(アラビアゴム)、アクリル絵具の場合は合成樹脂(アクリルエ樹脂)が固着剤として使われています。

油絵具は固着剤に油(乾性油)が使われ、補助剤として希釈液である有機溶剤、乾燥調整剤、形成助剤,防腐防黴材が含まれているものを指しているといえます。

絵具の成分

 油絵具水彩絵具エマルション絵具パステルクレヨンフレスコインクテンペラ絵具
発色成分顔料顔料顔料顔料顔料顔料顔料・染料顔料
固着成分乾性油
樹脂
ゴム類
糊剤(こざい)
合成樹脂
エマルション
ゴム類
糊剤
ロウ炭酸カルシウム(水酸化カルシウム)セラック
ゴム樹脂
合成樹脂

カゼイン

補助成分↓
希釈液有機溶剤
乾燥調整剤
形成助剤
粘性調整剤
界面活性剤
防腐防黴材(○)
湿潤剤
「絵具の科学」,ホルベイン工業技術部,(中央公論美術出版),2018年、17P

絵具の分類

 固着剤濃度  
水彩絵具アラビアゴムメディウム濃いと透明水彩
薄いと不透明水彩(ガッシュ)
油彩絵具油(リンシードオイル/ポピーオイルなど)
アクリル絵具アクリルメディウム濃いとアクリル絵具
薄いと不透明アクリル絵具
ポスターカラーデキストリン
卵テンペラ卵メディウム
カゼインメディウムカゼインテンペラ
日本画,墨膠液(にかわえき)
フレスコ
合成樹脂低粘度メディウムアニメーション絵具
パステル,コンテアラビアゴム/トラガカントゴム
ベネチアテレビン/ダンマルワニス/乾性油
アルギド絵具アルギド樹脂
オイルパステルワックス類/硬化油
【参考・引用】「絵具の科学」,ホルベイン工業技術部,(中央公論美術出版),2018年,3P
油の種類

 

乾性油(かんせいゆ,英:drying oil):乾性油は油脂(脂肪酸とグリセリンの化合物) の一種であり、空気中の酸素を受容して固まる。絵画技術に使用される代表的な乾性油は、亜麻仁油(あまにゆ)、胡桃油(くるみゆ)、罌粟油(けしゆ)、紅花油(べにばなゆ)などの植物性のものである。これら乾性油は、油絵具の媒材であり、顔料同士を結びつけ、乾燥すると多少弾力性のある、粘り気がない、下地に付着する塗膜を形成する*2

亜麻仁油(あまにゆ,英:linseed oil:リンシードオイル):最も媒材に使用されている乾燥油。亜麻の種子からえられる。過去、そのまま常温で押しつぶしたものが、色調も淡く、耐湿性にも優れ、画家に好まれた。現在では、厳密に生成され、不純物がないものが製造されている*2。画用液として、または固着成分として用いられる。画用液としては油絵具の固着力を高め、粘性や濃度の調節、艶出しなどの際に用いる*9。画用液としては中描き用、暗色での仕上げに使われる*1

罌粟油(けしゆ,英:poppy oil):罌粟の種子からえられる。黄色度が低く、明色及び白色の顔料の組み合わせに用いられる。乾燥速度が遅く、亀裂が入りやすい。地塗り、下層描きには用いない*2。。画用液として、または固着成分として用いられる。画用液としては油絵具の固着力を高め、粘性や濃度の調節、艶出しなどの際に用いる*10。画用液としては中描き用、明色での仕上げに使われる*1

大豆油(だいずゆ,英:soybean oil):大豆からえられる。半乾性油ではあるが、アルギド樹脂媒材の変性油として用いられる。ニュートン社のアルギド樹脂絵具がすである*2

絵画で使用される油の大半は植物油の乾性油です。乾性油が絵具、ペイント、インキなどに最も適した油だからです。乾性油は顔料同士を結びつけ、乾燥すると多少弾力性のある、粘り気がない、下地に付着する塗膜を形成します。

半乾性油は乾性油よりも乾燥が非常に早いので加工原料とし工業製品に用いられるそうです*1

動物油はあまり絵画では使用されません。植物油の不乾性油もそのままでは絵画材料として使用できず、脱水という特殊な加工を加えて絵画材料とすることもあるそうです*1。

溶剤と希釈剤と画用液

定義

溶剤(ようざい,英:sorvent):展色剤および媒材を科学的変化を伴わず、一次的に溶解させ、その後すべて蒸発してしまう液体を溶剤という。水やテレビン油、ペトロール油など*2

希釈剤(きしゃくざい,英:diluent):絵具の粘着度を調節し、筆さばきなどの作業性を良くするために、加える液体すなわち薄め液を希釈剤という。希釈剤は、画面に塗られた絵具から蒸発してしまう性質をもたなければならない。そのため、希釈剤には、溶剤が使用される。水彩絵具、テンペラ絵具における水、油絵具におけるテレビン油、ペトロール油は接着力がない。単に、絵具の粘稠度を一次的に低下させ、筆などで塗りやすいよう状態に薄める働きがあるだけである*2

画用液(がようえき,英:art solutions):画用液というのは、絵画技術上のいろいろな目的で使用される液状ないしはペースト状の補助材料の総称である。個々には絵具に流動性を与えるものもあれば、抑えるものもある。画面に艶(つや)を出させるものも、艶を消すものもある。油彩画・水彩画を問わず、首位である絵具の持ち味を存分に発揮させるためにも、制作後の画面に適切な処理を施すためにも、画用液は重要な役割を演じる*1

揮発性油(きはつせいゆ,英:Essential oils):揮発性油とは、油絵を制作する際に用いられるテレピンやペトロールなどの画用液(溶き油)のこと。常温で多くの成分が気化する。油絵具の粘性や濃度の調整、乾燥の促進、乾性油の希釈、樹脂などを溶解する力があるためワニスを自作するときの溶剤としても用いられる*5。揮発性溶き油ともいう。

希釈剤としての揮発性油:揮発性油は文字通り空気中に揮発することで乾燥する。乾燥は早いがそれ自体に接着力をもたないため、主に希釈剤として用い、単独で使うことは避ける*6

画用液

画用液は種類が多いですよね。呪文のように単語が続いていてめまいがしそうです。ここではほんの少しだけ紹介することにします。より詳しく知りたい方は「絵具の科学」の閲覧をお願いします。ここでは主に描画用に用いる画用液について扱います。

前提:メーカーが絵具を製造する場合には、画家によって手が加えられることを想定し、絵具のさまざまな物性を平均的なレベルに設定している*1

1:粘性を調整する画用液
粘性と粘度の違い:粘性とは流動性に関わる性質のことをいい、外力の変化に対する抵抗の度合いを粘度という*1。形状変化の速さや回転が止まるまでの時間の違いを引き起こす性質を粘性といい、この大きさを表す値を粘度という*7。例:はちみつは温度以外では流動性が変化しないという粘性をもつ。はちみつが温度によってどれくらい変化するかといった値が粘度。粘度が低いほど筆の運びが軽くなり筆跡をそのまま残す。粘度が高いほど筆の運びが重くなり筆跡が残らない。

【粘度を下げる方法】

(1)溶剤を使う

強い溶剤は画面を侵すので普段は用いない*1

ペトロール(英:Petrol):油絵具の粘性や濃度の調整、乾性油の希釈などに用いられる鉱物性の画用液(石油溶剤)。ペトロールは揮発性溶き油。油絵の制作工程における下書きや描き始めなどの段階で用いられる。多用すると絵具の耐久性や固着力が低下したり、艶を失う恐れがある*8。石油を蒸発して作られる。その性質はテレビン油と似ているが違いもある。たとえば蒸発すればまったく残りカスを残さず、年月を経ても品質が劣化しない。筆、パレットの洗浄、衣類についた絵具の拭き取り、絵具の希釈剤として利用する*6

(2)乾性油を使う

亜麻仁油(あまにゆ,英:linseed oil:リンシードオイル):最も媒材に使用されている乾燥油。亜麻の種子からえられる。過去、そのまま常温で押しつぶしたものが、色調も淡く、耐湿性にも優れ、画家に好まれた。現在では、厳密に生成され、不純物がないものが製造されている*2。画用液として、または固着成分として用いられる。画用液としては油絵具の固着力を高め、粘性や濃度の調節、艶出しなどの際に用いる*9。画用液としては中描き用、暗色での仕上げに使われる*1

罌粟油(けしゆ,英:poppy oil):罌粟の種子からえられる。黄色度が低く、明色及び白色の顔料の組み合わせに用いられる。乾燥速度が遅く、亀裂が入りやすい。地塗り、下層描きには用いない*2。画用液として、または固着成分として用いられる。画用液としては油絵具の固着力を高め、粘性や濃度の調節、艶出しなどの際に用いる*10。画用液としては中描き用、明色での仕上げに使われる*1

【粘性を変える方法】

スタンド・リンシードオイル:黄変性が少なく柔軟・強靭な塗膜をつくる*1。空気を遮断し、280°-300°で加熱し、製造される。粘着度が高く、黄色度が低い。通常の亜麻仁油よりも乾燥は早い。媒材そのものとしては粘着度が高すぎるが、媒材の一構成要素として用いると、筆触が残らず、平滑で陶器のような画面になる。黄変も少なく、耐久性に優れている*2

サンシックンド・リンシードオイル:筆のび良、速乾性、光沢、強靭な塗膜*1。ルネッサンス以降の伝統的な亜麻仁油精製の方法、すあんわち同僚の水と油を振り混ぜたのち、太陽光線に収集感さらす。その後、水を除去し、油をろかし、密閉する瓶に保管する。粘着度が高まり、色調もやや淡くなり、乾燥も早まる*2

2:艶(つや)を調整する画用液

・艶を出すためには塗面を平坦にする必要がある。

(1)ワニスを使う

樹脂ワニス(Resin vanish;Painting vanish):樹脂ワニスは固体の樹脂を揮発性油で溶解したもの。揮発成分が揮発することによって元の固体に戻るため、乾燥時間は早い。しかし揮発性油により再び溶解する上、柔軟性に乏しいため、単独で用いることが望ましい。多すぎる樹脂分の使用は画面にべたつきを起こし、画面上で絵具を動かすことを難しくする。樹脂は乾燥油に比べ屈折率が高く、絵具の透明性を高め、また艶を維持することからグレーズに陶器のようの釉薬(うわぐすり)のような効果(エマイユ効果)を与える*6

パンドル(英:pandol):樹脂ワニスの一種。中ー上描き用でとき油と調合して艶を出す*1。透明性や粘り、つやなどをもたらし絵具の固着力を強め、乾燥を早める効果がある(出典:美術用語辞典)。

つや消しワニス及びメディウム:シリカや老後配合したワニスメディウム。ロウは剥離の原因になる場合があるのでシリカ単独によるつや消しのほうが安全。製品としてはスペシャルマットペンチングオイルなどがある。

3:乾燥速度を調節する画用液

市販の絵具には助剤として乾燥促進剤が配合されている。油絵具は乾燥に時間がかかるので助剤では乾燥が間に合わない場合に、より乾燥を早めるために画用液としてシッカチーフを用いる場合がある。他にも画用液としてワニス(高濃度樹脂溶液)を使って乾燥を早めることもある*1

シッカチーフ(英:Siccative):乾燥促進剤。主成分は金属石けん。特に急ぐ必要がない限り使用しないほうがいい*1
4:透明感を調整する画用液

透明感:一般通年としての絵具の透明感というのは、塗膜がどれだけ透けて見えるかということである。いわば塗膜下部情報伝達性ということになる。塗膜構成そのものに関していえば、光を散乱・吸収・屈折する材質に対して透明部分の構成比が高いほど透明な塗膜になり、逆に構成比が低いほど不透明な塗膜となる*1

(1)透明感を上げる

描画用ワニス:パンドルやペネシャンタ-ペンタインを使う

ペネシャンターペンタイン:チロル地方を主産地とするヨーロッパカラ松の樹芯から採取される松ヤニ成分。ずば抜けた屈折率の高さで、七宝のような光沢と透明感を生み出す。基本的には調合ワニスの自製用として、乾性油+揮発性油と組み合わせて使う。注意点としては、乾燥が遅いことと、幾分黄変する性質があるので白色・淡色への使用は控えめにするべきである*11。

(2)透明感を下げる

透明感を下げる画用液は基本的にない*1。顔料を多く使ったり、不透明な顔料を使うことで対応する。

5:多目的に用いる画用液
調合溶き油:ペインティングオイルやスペシャルペンチングオイルなどがある。油彩系では絵具ののびをよくすること、早く乾燥させること、艶を出すことを目的として用いられるため、油、溶剤、ワニス、乾燥促進剤を配合した『調合溶き油』が多目的画用液の代表としみなされることが多い*1。初心者は画用液がペインティングオイルのみでも充分な場合がある*12。ペインティングオイルはリンシードオイル、乾燥促進剤、合成樹脂が調合され使いやすくなっている。
6:描画外で用いる画用液

保護ワニス(Venis a Tableaux;Picture Vanish):通称タブロー。完成した画面を保護するためのワニス。艶のあるものと艶消しの2種類がある。

・画面洗浄剤

歴史

油絵具の全体的な歴史

ヤン・ファン・エイク「ヘントの祭壇画」

ヤン・ファン・エイク「アルノルフィー二夫妻像」

西洋における絵画技術の歴史は大きな流れとしてはテンペラ画から油絵に変化したといわれています。テンペラ画は卵を固着剤とするものです。つまり固着剤が卵から油へと変化していったといえます。当時は油だけで全ての過程を制作していたわけではなく、他の絵具も使う重層的なものがほとんどでした。

ルネサンス・バロック時代(14-18世紀)の西洋絵画は膠(にかわ)、卵、乾性油、樹脂といろいろな媒材による絵具を順次重ねて塗って描かれるものが基本です。上層は油絵具(透明)、中層はテンペラ絵具、下層には水性絵具(不透明)という重層構造だったのです。油絵具だけで地塗りから仕上げまで描くようになったのは20世紀になってからです*2

(にかわ,英:animal glue):動物の骨,皮,腱 (けん) などから抽出したゼラチンを主成分とする物質。木竹工芸の接着剤あるいは東洋画の顔料の溶剤など用途が広い。通常,板状か棒状に乾燥させて保存し,湯煎によって適当な濃度に溶かして用いる(ブリタニカ国際百科事典)。

ルネサンス時代(Renaissance):14~16世紀のヨーロッパ社会の転換期に起った革新的な文化運動。 renaissanceは「再生」を意味するフランス語だが,「文芸復興」と訳されることが多い。ギリシア,ローマの古代文化を理想とし,それを復興させつつ新しい文化を生み出そうとする運動で,思想,文学,美術,建築など多方面にわたった(ブリタニカ国際百科事典)。

バロック(baroque): (baroque ポルトガル語の barroco 「歪んだ真珠」の意に由来) 芸術上の様式の一つ。美術史上一七二〇年前後の南・西ヨーロッパに支配的であった不規則な形の建築・装飾の様式に始まる分類で、のち一六世紀から一八世紀にかけて現われた、それ以前の古典的な整然と均斉のとれた様式を逸脱して、動感にあふれた美術様式を特色づけることばとなり、同様の傾向の文学・芸術・時代精神一般の様式の総称ともなった。バロック式(日本国語辞典)。

油画の発明

油画を発明したのはフランドル(地名)のフォン・エイク兄弟(14-15世紀)と言われています。彼らは膠絵具、卵テンペラ絵具、油絵具を使い、不透明な絵具と透明な絵具を重ねていく重層構造を形成する手法を実地に確立しました。代表作が「ヘントの祭壇画」です。もっとも乾性油を絵具として用いる技法はもっと前からあったそうです(12世紀にテオフィルスの「諸芸提要」に記述がある)*6

中世までは西洋において絵画といえば主に宗教画です。想像の世界や神々の世界を表現するものが宗教画です。現実世界とはちがったものです。実物を見て描くことがリアリズムだとすれば逆方向のベクトルの絵だということがわかります。そうした宗教画から俗的な画への転換のひとつが油絵の発展ということができます。不透明な絵具と透明な絵具を重ねていくことで立体的な表現を平面でしようとするのはたしかにリアリズム的です。

14-15世紀頃の油絵具は現代のようなチューブ入り絵具は発明されていなく、顔料と固着剤を別々に用意し、製作時に両者を混ぜ合わせて作っていたそうです。作り終わった後は絵具を水に沈めて乾燥を防いだり、貝殻に入れて油紙で覆って保管するなどしていたそうです*1。当時の絵具は現代とは違い流動性が高く、透明性が高かったそうです。19世紀(1841年)に押しつぶせるチューブが発明されて制作者は描く度に絵具を作るひつようがなく、チューブでいつでも使えるようになっていきました。

宗教画:宗教上の目的で描かれた絵画。礼拝図像や、宗教に関連した人物・事跡・伝説などを題材としたもの(出典:小学館)。

グレーズからアラ・プリマ技法へ(透明から不透明へ)

『ターバンの男の肖像』 (ヤン・ファン・エイク)

定義

マチエール(matiere):材料。材質。特に美術では、さまざまな素材や、その種々の使用法によって作り出された画面の肌および、その材質感のこともいう(「日本国語辞典」)。

グレーズ(glaze):十分に乾燥した画面の上に絵具を薄く引き伸ばすことで、油絵具の透明性は最も効果的に発揮される。明るい画面の上に透明色を薄く塗り伸ばすことをグレーズという*6油を多く使って絵具を薄め、半透明色にして塗る技法をグレーズ、グラッシ、透層ともいう*13。「ターバン男の肖像」では画面に当たる光はレーキ顔料のやや冷たく透明なグレーズ層を通して下層に届き、温かく明るいバーミリオンの層で反射し、我々の目に届くことで底光りするような深い赤色の色彩効果を作り出している*6

アラプリマ(仏:alla prima):一回でという意味を持つ言葉。勢いにのって一気に制作するといったニュアンスで用いられるようになった。下地から完成までの手順を追った制作にこだわらない、グレージング技法をあまり使わない、絵具の乾燥をあまり待たないといった特徴がある*13。透層(グレーズ)は最低限の使用にとどまり、特に明部は不透明な絵の具をおいた状態で完成する技法*14。油絵具の手応え充分な表現力は、乾燥がゆっくりな性質を生かして、一度塗った色でも後で修正が効き、画面上のいちをずらすように書き直せることであり、そうした特性を生かしたもののひとつがアラプリマ技法*15

インパスト:絵の部を多めに使って画面に置く・載せるようにして描く技法*14。重厚なテクスチャーや生き生きとした表情を作るための絵具の厚塗。ペインティングナイフや硬毛筆を使って絵具を盛り上げる*15

インプリマトゥーラ:白地全面に施す透明色の皮膜あるいは着色層。本格的に絵具を置く前の作業。下地の光を反射する性質はさまたげず、しかも、便利な背景の色をなして暗部と明部との間を塗りやすくする。簡潔な画風を生みやすい*15

可塑性(かそせい,英:):固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとに戻らない性質(「小学館」)。蒸発乾燥によりかさが減る水性絵具に対し、酸化重合による油彩絵具の乾燥は絵具をやせさせることなく描いた筆跡をそのまま維持し、可塑性のある絵肌を作る。ヴェネツィア派以降、絵具が固練りされるようになったことで絵具の可塑性は油彩画を特徴づけるものになった。透明な色彩が深い奥行きを感じさせるのに対し、不透明な厚塗りはその物質性も相まって全面に出てくる強さを感じさせる。可塑性のある下描きと透明感のあるグレーズ層との組み合わせは16世紀以降の油彩画の特徴となった*6

印象派(impressionism):19世紀後半にフランスを中心に行われた美術上の運動および様式をいう。これを推進した画家たちは印象派と総称される。19世紀なかば、フランスの文芸や思想の分野では実証主義の風潮が強く、これを受けて美術界でも1850年ごろ以降クールベの写実主義が頭角をもたげつつあった。可視的なものをあるがままに描写しようとする態度で、色彩は暗く、あるいは渋い。自然をすなおに見つめ、歴史的・文学的な主題を否定する点で、マネも初期の印象派たちもクールベの主張を受け継いだ。だが、彼らはしだいに色彩の明るい輝きに魅せられ、自然のなかの光と空気の変幻きわまりない戯れに、もっとも強く創作意欲を刺激されることになった。明るい絵画へ、光の効果の分析へ、空気の存在感の描写へ、という方向である。換言すれば、マネと印象派は実証的な客観主義に出発しながら、自己の個性や感性を解放する主観主義へと向かったことになる。各画家の画風の進展深化とともに、印象主義はフランス美術史上空前の黄金時代を生み出し、写実を基礎とする西洋美術の最終段階を形成し、同時に20世紀美術の諸傾向にもさまざまな作用を及ぼすこととなった(日本大百科全書)。

初期ブランドル派のヤン・ファン・エイクの技法:不透明色によるモデリングの後、透明色による透層を施すものであるが、明部はあまり透層せず、暗部に慣ればなるほど回数を増やしている。重層された透明な画の具層は複雑な光の透過により、微妙で深みのある色彩が表出されている*14

スカンブリング技法:下色がとぎれとぎれに見えるように、半透明か薄く溶いた不透明絵具を上から粗く塗る方法。スカンブルともいう。パステル画の場合、パステルの腹を使い軽くこすって色を重ねると、下に塗ってあったパステルの色の一部が後から重ねた色の間から見える*15

ウェット・イン・ウェット技法:画面上で絵具がぬれているうちに、別の絵具を塗り重ねること*15

説明

油彩画を大きく2つの技法に分けると透明色を用いた技法と不透明色を用いた技法に分かれます。ざっくりいえば透明色を主体に用いる技法がグレーズ、グレージング、透層、スカンブル、スフマートなどといわれるものであり、不透明色を主体に用いる技法がインパスト、厚塗り、アラプリマなどといわれる方法です。

油絵具の技法が確立されたのがルネサンス時代のファン・エイク兄弟(14-15世紀)です。彼らはグレーズの技法を用いていました。彼らは初期フランドル派といわれています。フランドルとはファン・エイク兄弟が住んでいた現在のベルギーにあたる北フランス地域です。当時はテンペラ絵具からの移行期だったので薄塗りの技法が油彩表現に影響を与えていたそうです*14

17世紀になると油絵具の可塑性(かそせい)を活かしたインパストの表現が見られるようになり、プリマ技法が用いられる作品がおおくなります。19世紀後半の印象派の時代になると不透明な絵具がさらに多く使用され、明確な透層(グレーズ)による絵の具層が最終層になる作品は減っていきました。つまりグレーズ的な技法からアラプリマ的な技法へ、透明な技法から不透明な技法へ、写実的な技法から印象的な技法へとシフトしていったのです。

透明か不透明か

不透明色を用いた技法:絵具を多めに使って画面に置く・載せるようにして描く技法*14

透明色を用いた技法:油を多く使って絵具を薄め、半透明にして塗る技法*14

ファン・デル・エイデン「聖母を描く聖ルカ」

上の画像はルネサンス時代の初期フランドルの派のファン・デル・エイデン(1400-1464)の作品です。この作品は下地は白色で平滑なマチエールで作られ、吸収止めに油を添付した後、不透明色で描画、その上層に透明色による透層で透明な被覆を形成しています。暗部ほど透層を繰り返すため、暗部が最も絵具の階層が多く、熱くなっているそうです*14。つまりヤン・ファン・エイクのように下層に不透明、上層に透明な絵具を使うことによって立体感を表現しているといえます。その中でも明部は不透明中心に、暗部は透明を中心ににといったように差をつけることによってフランドル派は立体感を油絵で表現しています。

レンブラント「63歳の自画像)」(1669年)

ラッヘル・ロイシュ「花と花瓶」(18世紀頃)

17世紀までの画家たちは効率の良い描画法を心がけ、まず画面全体を中間的な色合いに塗り上げてから、その後で光の部分には不透明色、そして影の部分には透明な暗色を薄く加えていくのが普通だったそうです*15。

クロード・モネ「アルジャントゥイユ秋の効果」

上の画像は印象派のクロード・モネ(1840-1926)の作品です。モネは自然の光の移り変わりを厚塗(インパスト)で表現しています。

一方,印象派の作家であるモネの作品は画面のほとんどがプリマ技法による厚い不透明層で覆われており,ファン・デル・ウェイデンの作品のような明部は不透明色層,暗部は透明色層といった箇所はあまり見られない。しかしながら,近景,遠景等,画面の奥行きの差の表現では,近景,遠景モチーフの境目が一方は不透明層,もう一方は透明層で表現されており,こちらはファン・デル・ウェイデンの作品の絵の具層と同様の配列パターンになっていることが確認できた。このことから,画面に置かれた絵の具の透明層・不透明層と空間表現の関係は,異なる距離の表現において双方の境目の一方に透明層,もう一方に不透明層を用いることが効果的であることが理解できた。また透明色を多用する作品の場合はさらに,明部は不透明層中心,暗部は透明層を中心に表現するといった,明度差によって絵の具層の透明度を変えることで事物の立体感を表
出することができることも確認できた*14。

グレージング技法からアラプリマ技法へ変化したといっても、極端に不透明だけ、透明だけといった表現ではないことがわかります。空は透明に、建物は不透明に、水際は透明に、水面は不透明にといったような差をつけることで立体感をうまく表現できています。ブランドル派は明部は不透明に、暗部は透明にといった書き方でしたが、印象派はそうした手法ではなく自由に、より直感的・印象的に表現しているようです。

参考文献

※勘案しているものもありますので正確な内容を必要とする方は参考文献の直接的な参照をお願いします。できるだけ文章の意味を変えないように勘案を行っていますが大学のレポートや論文で利用する際は参考文献の購入や図書館での閲覧をおすすめいたします。間違っている内容があればお手数ですがコメントにて連絡をお願いします。

1:「絵具の科学」,ホルベイン工業技術部,中央公論美術出版,2018年

2:「絵画制作入門」,佐藤一郎,東京藝術大学出版会,2014年

3:「色彩用語辞典」日本色彩学会(東京大学出版会)

4:https://ir.kagoshima-u.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=14199&item_no=1&page_id=13&block_id=21

5:http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E6%8F%AE%E7%99%BA%E6%80%A7%E6%B2%B9/

6:「絵画組成」,武蔵野美術大学出版局,2019年

7:https://www.tacmina.co.jp/library/coretech/288/

8:http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E3%83%9A%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB/

9:http://zokeifile.musabi.ac.jp/%e3%83%aa%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%bc%e3%83%89%e3%82%aa%e3%82%a4%e3%83%ab/

10:http://zokeifile.musabi.ac.jp/%e3%83%9d%e3%83%94%e3%83%bc%e3%82%aa%e3%82%a4%e3%83%ab/

11:https://webshop.sekaido.co.jp/product/A000292

12:https://www.frame-art-one.jp/%E7%94%BB%E6%9D%90%E3%81%BE%E3%82%81%E7%9F%A5%E8%AD%98/%E6%B2%B9%E7%B5%B5-%E6%BA%B6%E3%81%8D%E6%B2%B9%E3%81%AE%E5%9F%BA%E6%9C%AC/

13:http://www009.upp.so-net.ne.jp/Kazuhiko/class/alla_prima.html

14:https://ci.nii.ac.jp/naid/40020489141

15:「アートテクニック大百科」美術出版社

16:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/20/1/20_3/_pdf/-char/ja

 

参考画像

1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/75/9/75_450/_pdf/-char/ja

toki

toki

投稿者プロフィール

アーティストに役立つような情報をまとめ、人間関係の手段として芸術が寄与すればいいなと思っています。学んだもの、考えたものは自分だけが独占するのではなく、共有するべきものだと思っています。
連絡は@mmnntmrのTwitterのDMでお願いします。基本的にこのアカウントしか見ていません。
絵に関して調べてほしいことがあればできるだけ対応しますのでぜひ連絡をくださいm(_ _)m

この著者の最新の記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


よかったらフォローお願いします!




ピックアップランダム記事

  1. クリスタでの宝石を塗り方を学ぶ クリスタでの宝石の塗り方を学んでいきます。学んだログを置いておくの…
  2. 絵の具における明度と彩度の関係に対する基礎理解 大前提:赤い絵の具が赤色に見える理由 補色(ほし…
  3. 要旨 この記事の内容まとめ カラーマネジメントとは自分の見ている色と相手が見る色をでき…

閲覧数の多い記事




カテゴリー

カテゴリー選択

ページ上部へ戻る